FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第408回

 シャルロットは、相変わらずエドゥワルド=ユリアンスキーを連れて墓参りを続けていた。レシチンスキー伯爵もたった一人で墓参りをしていた。しかし、彼らは、なぜか墓の前で会ったことはなかった。レシチンスキー伯爵は、あれ以来シャルロットに会わないように気をつけていた。あの前までは、かの女に会いたくなかった。あれ以後は、あの悲しそうな表情を見るのがつらくて、避けるようにしていたのだった。
 シャルロットは、いつものように白いバラを買おうとした。ふと気がつくと、あたりからバラの香りがした。途中の大きな屋敷からバラの香りがしてきたのである。かの女は、いつのまにか6月になっていたのに気がついて立ち止まった。
「どうしたの?」エドゥワルドが訊ねた。
「バラが咲いているのね」シャルロットはしみじみとした口調で言った。
 エドゥワルドはうなずいた。
 シャルロットはまた歩き出した。エドゥワルドは、かの女をガードするようにその隣にならんだ。
 やがて、二人は花屋に到着した。シャルロットは、自分が買おうと思ったバラをじっと見た。かの女はいつも同じ花を買ったが、自分が買う花をこんなにじっくり見たことはなかった、となぜともなく考えた。そして、ゆっくりと花を自分の顔に近づけた。
『きれいなバラね』
『このバラは、美しいバラだ。バラの女王と呼んでいい花だとぼくは思う。ただね、このバラには香りがないのさ』
『でも、香りがなくても、この花はすてきだわ』
『ぼくもそう思うよ』
 シャルロットははっとして店員を見つめた。「・・・このバラにも、香りがないのね?」
「さようでございます」花屋はにっこりして答えた。「フラウ=カール=ドルシュキー。本当に、バラの女王にふさわしい花です」
「フラウ=カール=ドルシュキー?」
「はい。スタニスワフぼっちゃまは、このバラの中に、アレクサンドルさまを見ておいででした」
 シャルロットは驚いて彼を見つめた。
「申し遅れました。わたくしは、レシチンスキー家で昔庭師をしていたことがあるクシシュトフ=コロと申します」
「・・・あなたは、いつもこれをわたしのために---いいえ、スタニスワフのために用意されていたのですね?」
「あなたのために、です」彼が答えた。
「それなのに、わたしは、これまで自分が買っていたバラをじっくり見たこともなかったなんて、恩知らずだったわ」
 彼は困ったようにシャルロットを見た。「気がついて下さらなくてもかまわなかったのです。スタニスワフさまなら、きっとおわかりになると信じていましたから」
「ありがとう、コロさん」
 シャルロットは、バラを二本買った。今日は、この人の分も花を捧げようと思ったのだ。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ