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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第409回

 天気が悪くなっていた。もうすぐ雨が降り出しそうな空だった。エドゥワルドは空を気にしていた。シャルロットの方は、いつものように歩いていた。かの女には、天気など全く気にならないようだった。
 墓の入り口でシャルロットを見送ったあと、エドゥワルドは傘を買いに行こうと思い、墓守に後を頼んでその場を離れた。しかし、彼が店に到着する前に、にわか雨が容赦なく降り出した。
 シャルロットの方は、スタニスワフの墓の前でひざまずいて祈っていた。かの女は、雨が降り出しても全く気にせずに祈り続けていた。
 雨が止んでから、レシチンスキー伯爵がやってきた。彼は、スタニスワフの墓の前でうずくまっていたシャルロットを見つけた。
「ブローニャ! いったいどうしたの?」レシチンスキー伯爵が思わず叫んで駆け寄った。
 シャルロットはゆっくりと顔を上げた。そして、声をかけた人物に気がつくと、悲しそうにまたうつむいた。
「体中、びしょぬれじゃないの!」彼はかの女を見つめた。
「・・・わたし、スターシと話をしていました」
「雨の中?」彼は驚いたように言った。「そんなことをしたら、風邪を引いてしまうだろう?」
「でも、ぬれているだけです。溺れて死んだりはしません」かの女は弱々しい口調で言った。そして、ゆっくりと上半身を起こそうとした。かの女は、きちんと座ってからこう言った。「伯爵さま、わたしは、スターシが死んだのに、わたしが生きていることをすまなく思っています」
「誰がきみに死ねと言った?」伯爵は怒っている口調で叫んだ。「きみが死んで、スターシが喜ぶとでも思っているのか?」
 シャルロットはうなだれた。かの女は、またぐったりと横たわった。
「いいかい、きみには、責任はない。きみは、やるだけのことはしたんだ」
「いいえ。わたしが彼を殺したんです。そうおっしゃったのは、あなたでしょう?」
 レシチンスキー伯爵は、初めて自分の心ない言葉を反省した。「殺した、だって? それじゃ、きみには、殺意があったのかね? 彼が死ぬように、何か手を打ったのかね?」
 シャルロットは力無く首を横に振った。もう話す気力が残っていないようだった。
「ブローニャ、聞いてくれ。わたしが間違っていた」あの誇り高いレシチンスキー伯爵が、ちいさな少女に頭を下げた。「彼があまりにも突然死んでしまって、わたしは、自分の悲しみをどこにぶつけていいかわからなかった。そして、その悲しみを、きみを苦しめることで紛らわそうとしていたのだ。許して欲しい」
 そう言うと、彼はぐったりしていたシャルロットを抱き起こした。「もちろん、こんなふうに言われたからといって、きみがすぐに心の傷口をふさぐことができるとは、わたしにだって思えない。かなり深い傷口だから、なかなか治らないだろうね。わたしは、きみにとんでもないことをしてしまったのだ。ねえ、ブローニャ、もし許してくれるのなら、ときどき、わたしのところを訪ねてきてくれないだろうか? そして、一緒にスターシの思い出話でもしようよ」
 シャルロットは、静かに目を閉じた。涙がふたすじこぼれ落ちた。
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