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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第410回

「スターシは、かわいそうな子だった。アレクサンドルが死ぬまでは、わたしたちは、あの子を自由にしていた。彼は、好きな音楽を思い切り楽しんでいた。しかし、あの子は、兄の死によっていきなり跡取になった。わたしたちは、彼を急に縛りつけようとした。わたしたちは、彼の将来のためには、ピアノトリオを続けるより、ロシアに勉強に行くことの方が重要だと思いこみ、彼に圧力をかけてしまった。彼は、あんなに短い一生だったのに、苦しんで生きたんだ・・・」
 シャルロットはぱっと目を開けた。そして、涙で潤んだ目で彼を見つめ、首をゆっくりと横に振った。
「いいえ、スターシは、幸せでした。彼は、死ぬまで<クラコヴィアク>の一員だったんですもの。それに、あなただって、彼の言うとおりにして下さったじゃありませんか。彼は、あなたが<クラコヴィアク>を続けていくことを認めて下さった日、とても嬉しそうでした。わたし、あのときの彼の喜んだ顔を、今でもよく覚えています・・・」
 彼は、シャルロットを思わず抱きしめた。
「・・・許して下さるのですか?」シャルロットが訊ねた。
「悪いのは、わたしの方なのに」彼は穏やかな調子で言った。「きみは、こんなにスターシを愛してくれたのに、わたしは、ずっときみを誤解していたんだ。それなのに、きみは、許してくれなんて言うのかい?」
 シャルロットは何も言わなかった。
「さあ、笑って、ブローニャ! きみには、ほほえみが似合っている。そのほほえみを、スターシは愛していたものだった・・・」
 伯爵は、シャルロットの肩を優しくたたいた。
「さあ、笑って、スターシのために・・・」彼は、墓の方を指さし、かの女を励ますように繰り返した。
 シャルロットは涙を拭こうとした。しかし、涙はいくらでもあふれ出た。
「・・・ごめんなさい、できないわ・・・」シャルロットがつぶやいた。
 伯爵は、墓の方を向いた。「スターシは、笑っているきみが好きだったんだ。だから、わたしは、もう一度きみにほほえみを取り戻させよう。スターシのために」
 彼はそう言うと、シャルロットを支えて立ちあがらせた。
 それから、彼はさっき足下に置いたぬれた傘を拾って左手に持ち、右手でシャルロットの肩を抱いた。そして、二人は歩き出した。
 墓守とエドゥワルド=ユリアンスキーは、二人がふらふらとした足取りでやってくるのを見て驚いた。
「シャルロットお嬢さま!」エドゥワルドが声をかけた。
「大丈夫、馬車で送ってあげよう」レシチンスキー伯爵は、心配そうに見つめている少年に言った。「風邪を引かないように、急いで帰らなくてはね」
「ありがとうございます、伯爵さま」エドゥワルドが言った。
 墓守は、エドゥワルドに目で訊ねていた。『やはり、この人は、レシチンスキー伯爵なの?』
 エドゥワルドは、墓守に向かってにっこりしてうなずいた。
 墓守は、一度怒り出したら最後、決して許すことはないという評判の男が浮かべているほほえみに、感動すら覚えていた。そして彼は、3人が、まるで昔からの知り合いのような親密さで馬車に乗り込むのを見守った。
 この日以来、チャルトルィスキー家とレシチンスキー家は、今までの以上の親密なつきあいを再開したのである。
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