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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第411回

 アントーニ=チャルトルィスキー公爵の仕事は、毎朝ユゼフ=ユリアンスキーが運んでくる手紙類を読むところから始まるのだが、その日の朝は、珍しく手紙が少なかった。ユリアンスキーは10通ほどの手紙を公爵に渡し、今はもう習慣になったドアの番を始めた。
 彼は、一番上に乗っていた黒い縁取りのある封筒を開けた。そして、何気ない様子で読み始めたが、いきなり真っ青になった。
「ユリアンスキー、すまないが、ヴォイチェホフスキーを呼んできて欲しい」
 ユリアンスキーは、公爵のただならぬ様子に驚いた。「公爵さま、ご気分が優れないのですか?」
「・・・聞こえなかったのかね、ユリアンスキー?」
「・・・はい・・・かしこまりました」ユリアンスキーは、公爵のいらだった様子に驚いて、部屋を飛び出すように出て行った。
 まもなく、ヴォイチェホフスキーが現われた。ユリアンスキーは、その場をヴォイチェホフスキーにまかせて部屋を出た。公爵が二人きりにして欲しいというようにユリアンスキーを見たからでもあった。
 二人になると、公爵は手紙をヴォイチェホフスキーに手渡した。「ユーレック、わたしは・・・こんなものをもらった・・・」
 ヴォイチェホフスキーは首をかしげながら手紙を受け取った。
「フェリックス=ザモイスキーからだ。読んでごらん」公爵が言った。
 ヴォイチェホフスキーは、声に出して読み上げた。「《死亡予告書。1912年6月、ビアルフにおいて、チャルトルィスキー一家、イェジイ=ヴォイチェホフスキー以下数名が亡くなる予定。ご用心されたし。F・Z》・・・これが、フェリックス=ザモイスキーからだとお思いですか? ただのいたずらじゃないんですか?」
「今度の別荘行きは、取りやめにすべきかも知れないね」公爵はいつもと同じように穏やかに言った。しかし、彼の顔色が、彼の狼狽を表していた。
「でも・・・」
「わたしたちが別荘の中でも<ビアルフに>行こうとしていると、彼がどうして知っているのか、不思議には思わないのかね? だとしたら、ただのいたずらとは思えない」
「でも、シャルロットお嬢さまには、休養が必要です」ヴォイチェホフスキーが言った。
「じゃ、せめて、きみだけはここに残ってくれるね?」
 ヴォイチェホフスキーは首を横に振った。「わたくしは、67年間、あなたのそばにいます。なぜ、今更そんなことをおっしゃるのです? なぜ、今更あなたのそばを離れなければならないのです?」
「・・・ありがとう。でも、狙われるとわかっているのについてきてくれるなんて、わたしはきみに、それほどのことをしてもらうようなことをしただろうか?」
 ヴォイチェホフスキーはほほえみを浮かべた。
「しかし、きみには、残ってもらわなくてはならない」公爵はさらに言った。「わたしにもしものことがあったとき、あとのことをまかせられるのは、きみしかいない」
「ユゼフ=ユリアンスキーがいます。彼も、あなたを心から慕っています。彼になら、すべてをまかせられます」ヴォイチェホフスキーは、確信を持った口調で言った。
 公爵は、ヴォイチェホフスキーをまっすぐに見た。「ユーレック、本当に来てくれるというのかい?」
「ええ。わたくしの主はあなただけと決めています。死ぬまでお供いたします」ヴォイチェホフスキーはにっこりと笑って答えた。
 しかし、手紙は次の日にも届いた。さらに、その翌日にも・・・。もはや、単なるいたずらとは思えなかった。
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