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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第412回

 それから約一週間後のある朝、公爵はドアのところに立っていたユリアンスキー父子にこう言った。
「話がある。ドアを閉めて、二人とも中に入って欲しい」
 ユゼフ=ユリアンスキーは、息子を先に入れてからドアを閉め、二人は公爵の机の前に立った。
「ユリアンスキー、それにエデックも聞いて欲しい。これは、まだヴォイチェホフスキーにしか話していないことで、ナターシャやブローニャも知らないことだということを知っておいてほしいんだが」公爵はこう前置きすると、いきなり本題に入った。「屋敷の中に、誰かフェリックス=ザモイスキーの協力者がいるようなのだ。あの男は、わたしたちが夏の休暇を別荘で過ごすことを知っている。そして、その場所がビアルフだと特定している。この情報を知る人は少ない」
 ユゼフ=ユリアンスキーはうなずいた。直接準備に関わっている人以外知らない情報である。ただし、<準備に関わっている人>が数人、いや十数人単位の人ではないのは確かなのだが。
「が、ザモイスキーはそれを知っている。そして、わたしたちは、今度も命を狙われている。今月に入って、何通か犯行予告状が来ている。もちろん、憲兵にも通報済みだ。そこでだが・・・」
 ユリアンスキー父子も青ざめていた。特に、エドゥワルドは真っ青で、今にも倒れそうだった。
「今度のビアルフ行きには、きみたちは連れて行かないことにした。勉強相手がいないんで、ブローニャはきっと寂しがると思うが、今回だけは仕方がない。わたしは、きみを助けたいんだ、エデック。そして、わたしたちにもしものことがあったとき、頼れるのはきみしかいないからだ、ユリアンスキー」
 ユゼフ=ユリアンスキーは首を横に振った。「ヴォイチェホフスキーさんがいます」
「彼は、連れて行くんでね」
「じゃ、わたくしも連れて行って下さい。きっと、あなたをお守りします」
「それはできない。きみには、もしものことがあったとき、ここにいてもらわなくてはならないんだ。わたしにとって、きみしかいないんだよ、ユリアンスキー」公爵は辛抱強く繰り返した。「いや、もしものことがあるはずなんだ」
 公爵はそう言うと、ユリアンスキー父子を順番に見た。父親の方は困惑したような表情で公爵を見つめていた。息子の方は、明らかに不満そうな顔をしていた。
「・・・エデック、何か言いたいんじゃないのかね?」
 エドゥワルドは、思いきって言った。「ぼくは・・・いいえ、わたくしは、別荘に行くべきじゃないと思います。何かが起こるとわかっていて出発なさるなんておかしいです。わたくしには、あなたが死にたがっているとしか思えません」
「わたしは67だから、いつ死んでもおかしくないけど、ナターリアやシャルロットが巻き添えになるのは嫌だ、というわけだね?」
 エドゥワルドは急に真っ赤になった。「わたくしは、そのようには・・・」
「死ぬのはわたしだけだと思いたい。問題は、わたしがいなくなったあとなのだ」公爵は穏やかに言った。「ナターリアがいればいいのだが、シャルロットだけになったときが一番恐いのだ。あの子には、誰も味方がいない。わたしたちがいなくなれば、あの子は完全に一人きりになってしまう。ポニァトフスキーさえ、あの子の敵に回るだろう。彼は、あの子を憎んでいるからだ。だから、きみたちに頼んでおきたいのだ。たとえわたしがいなくなっても、あの子がわたしだと思って守ってやって欲しいんだ。頼んでかまわないかい?」
 ユゼフ=ユリアンスキーが言った。「もしものときには、必ずシャルロットお嬢さまをお守りいたします。そのときには、かの女を新しいご主人様と思って、あなたのときと同じようにお仕えいたします。約束します」
「わたくしも、誓います。たとえわたくしの命と引き換えにしてでも、必ずシャルロットお嬢さまをお守りします。わたくしは、お嬢さまの勉強相手に選ばれたときから、一生あの方のためにお仕えすると決めておりました。何があっても、わたくしの決心は変わりません」エドゥワルド=ユリアンスキーが答えた。彼にとって、この言葉が彼の一生を決めることになった。ただ、このときには、その誓いを守るのがどのくらい大変なことか知るよしもなかったのだが・・・。
「・・・ありがとう。これで安心して出発できる」公爵が言った。「きみたちには、もう一つだけ頼みがある。ナターリアたちには、このことを絶対に秘密にしておいてもらいたい」
「かしこまりました」ユリアンスキーが答えた。
 出発の準備は、大詰めに入っていた。
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