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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第413回

 6月14日、チャルトルィスキー一家は、馬車でビアルフにある別荘に向かって出発した。馬車には、二人の御者と二人の従者がついた。公爵と一緒に馬車に乗ったのは、ナターリアとシャルロット、家庭教師のヘルマン=エッフェンベルガー、そして執事のヴォイチェホフスキーで全員である。つまり、最低限度の人間しか乗っていなかったことになる。ほかの人たちは、一足先に別荘に向かっていた。
 馬車は、昼近くになって、ようやくビアルフにさしかかった。湖を大きくまわらなくてはならなかったが、村はもう湖の向こうに見えていた。しかし、外を眺めていたのはナターリア夫人だけだった。公爵とヴォイチェホフスキーは何か政治の話をしていたし、エッフェンベルガーはシャルロットに歴史の授業をしていた。
「・・・こうして、メキシコに、ハプスブルク家出身のマクシミリアンが皇帝として迎えられたのです。1864年4月のことです。このマクシミリアン皇帝は、大変お気の毒な方でした。彼は、政治の駆引きに利用されたのです。ナポレオン3世は、フランス軍をメキシコから立ち退かせることができませんでした。なぜならば、彼としては、どうしてもハプスブルク家と和解したかったからです。そして、国内での信用を回復したかったからです。でも、こうした軍事行動がうまくいくはずはありませんでした。・・・マクシミリアン皇帝は銃殺されました。それはそれは無惨な殺され方でした。1867年6月19日のことでした」エッフェンベルガーはそう説明した。
『無惨な殺され方』という言葉を聞いて、チャルトルィスキー公爵とヴォイチェホフスキーは、話をやめてエッフェンベルガーの方を向いた。
 それには気づかずに、シャルロットが言った。「もうすぐ6月19日ですね・・・。メキシコって遠いんでしょうね」
「ええ、ずっと西の方にあります」エッフェンベルガーは、そう言うと、急に黙ってしまった。彼は、自分の故郷のことでも考えたのだろうか、とシャルロットは思った。
 馬車の中は急に静まりかえった。
「狭い道だね、ユーレック」やがて、公爵が小さな声で言った。
「でも、すてきな道でございますね」ヴォイチェホフスキーが返事した。
「ビアルフの人たちは、この道が狭いとは思っていないのかしら?」シャルロットが訊ねた。
「いいや、特に誰もそう思っていないようだ。村の人にとっては、この道は狭くはないんだろうね。少なくても、誰も不便だとは思っていないようだ」
「どうして、そんなことがわかるの?」シャルロットは首をかしげた。
「ここをまかせている男は、村の人たちの話をよく聞く人でね・・・。村の人たちが安心して住めるように働いているんだよ。村の人たちは、何か困ったことがあれば、彼に相談するんだ」公爵が言った。
「道をひろげることはできないの?」シャルロットが訊ねた。
「できるさ。でも、村の人たちに負担がかかる。彼らは、畑を耕さなくてはならない。道路工事をしている暇なんかないんだ。そんな仕事をさせたら、みんな困るんだよ。だから、させないんだ」公爵が説明した。
「・・・きれいな湖ね」ナターリア夫人が言った。「わたしは、ここの湖が好きだわ。昔、学生の頃、レマン湖が見えるところにいたんだけど、ここは、あの湖みたいにすてきだわ」
「ちょっと止まってくれないか」公爵は御者に声をかけた。「湖が見たいんでね」
 馬車が止まった。
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