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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第2章

第40回

 後に、テオドール=フランクは、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンにあてた手紙の中で、かの女の養女をどうしてヴィルフォール音楽院に入れたのか訊ねている。
 フランソワーズは、それに対してこう返事した。

・・・(中略)あなたの問題提起、面白く拝見いたしました。例の、クラリスをヴィルフォール音楽院に入れたのはなぜか、という話です。理由はいろいろあります。あなたは、わたしがかの女をベルナール=ルブランから引き離したかったからだ、と思っておられるようですが、決してそれが主な理由ではありません。メランベルジェ自身を除いては、メランベルジェの弟子たちの中で一番すぐれた教師はベルナール=ルブランだと思います。かの女は、もうじゅうぶんにメランベルジェの影響を受けすぎた、とわたしは思います。物心ついた頃には、メランベルジェとその弟子たちの中にいたわけですから。かの女が大人になっているのなら、特にそれが問題だとは思わないのですが、かの女はメランベルジェの影響を受けることを自分で選んだわけではないのです。かの女には、もっといろいろな世界を見てもらいたい。そして、いろいろな価値観にふれてもらいたい。それから、自分の音楽を自分で選び取ってもらいたい・・・。もし可能なら、かの女にはアンリ=ロラン自身に作曲を学んで欲しい。ロランの音楽から何かを吸収してもらいたい。でも、ロランがかの女を弟子にするとは思えません。少なくても、現状のままでは。そこで選んだのが、ヴィルフォール音楽院です。そこの作曲科の教授たちは、アンリ=ロランの弟子たちが中心です。特に、エリック=ランディ教授は、ロラン信奉者とも言われるくらいです。メランベルジェの弟子で言うと、ベルナール=ルブランのような人でしょうね。そういう環境に、クラリスをおいてみたかったのです。予想通り、ランディ教授は、クラリスがただものではないことに気づいて自分の弟子にしました。ランディ教授がクラリスをどう育てようとしているのか、わたしには現時点ではよくわかりません。彼の思うとおりに育つかどうかも、ね。わたしは、ヴィルフォール音楽院がクラリス=ド=ヴェルモンという音楽家をどうするのか、興味を持ってみています。麦は、踏まれることによって強くなるのです。ヴィルフォール音楽院での経験は、かならずかの女にとってプラスの結果を生むと信じています。彼らには、かの女を否定することはできても、世界はかの女を否定することはできないはずです。いずれ、それが証明されるときがやってくるでしょう・・・。(後略)



 その手紙を受け取ったテオドール=フランクは、妻のマリアンヌにこう言った。
「クラリスは、もう、立派な作曲家だよ。あえて、ヴィルフォール音楽院に送り込む必要なんてなかったんだ。フランソワーズは、どうして敵の陣地のど真ん中にあえて爆弾を投げ込むようなことをしたのかな?」
 マリアンヌ夫人はちょっと考えてから言った。「・・・秘密兵器の威力を試したかったんじゃないかしらね」
 フランク氏は驚いたように妻を見つめた。
「あなたが『爆弾』なんて表現を使うから悪いのよ」夫人がほほえんだ。「それにしても、クラリスも大変ね、敵のただ中にいるようなものだもの。でも、フラニーの言うとおりかもしれない。いくら彼らがかの女を否定しても、かの女が音楽家であることは動かしようもない事実だものね」
 フランク氏はうなずいた。「彼らに押しつぶされなきゃいいがね」
「わたしたちが、そんなこと、絶対にさせないわ」フランク夫人がきっぱりと言った。
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