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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第415回

 気がついたとき、シャルロットはワルシャワの病院にいた。
 枕元には、タデウシ=クルピンスキー医師と、もう一人、見たことがない40代くらいの男性がいた。
 シャルロットは起きあがろうとした。
「ねてなさい、ブローニャ」クルピンスキーは、いつもの容赦ない口調で言った。
「みんなは?」シャルロットは訊ねた。
 二人の男たちは顔を見合わせ、シャルロットから目を背けた。
「・・・一人くらいは、助かったんでしょう?」シャルロットはすがるような視線をクルピンスキーに送った。
「ええ、一人だけは、何とかね。チャルトルィスカ公爵夫人は、命だけは取り留めた。しかし・・・」クルピンスキーは、珍しく口ごもった。
 シャルロットは、ただごとではない事態を察した。それで、質問を変えた。
「わたしは、歩けるようになるでしょうか?」
 その質問も、クルピンスキーには答えにくい性質のものだった。クルピンスキーは、思わず顔をしかめた。彼は、患者に気休めを言うには、まだ若く、あまりにも正直すぎた。
「歩けるようになると断言することはできない。だが、ならないと断言することはできない。希望を持ちなさい。そして、辛抱するのです」
 シャルロットはうなずいた。彼の目は嘘を言っていなかった。こうしたときの人間の目には、魅力があるものだ。かの女は、フェリックス=ザモイスキーの目を思い出していた。
「ところで、わたしは、スタイナー刑事と言います。あの事故について、あなたが知っていることをお話し下さい」もう一人の男が初めて口を開いた。
「事故ではありません。事件です」シャルロットが訂正した。
 彼の目が光った。「事件ねえ。どうして事件だ、ってわかるの?」
「自分の馬車に、自分でダイナマイトを投げる人がいたら、お目にかかりたいものですわ」シャルロットが優しい口調で言った。
「ダイナマイトですか? どうしてダイナマイトだとわかるの?」
「あなたって変な方ですね。馬車は爆発したのよ」シャルロットは辛抱強く説明した。
「じゃ、なぜ爆発したってわかるんです?」
 シャルロットは黙ってしまった。この人とは話にならない、という結論を出したような顔だった。
 スタイナー刑事は言った。「お嬢さん、話して下さい。なぜ爆発したってわかるんです? もし、事件なら大変なことです。死んだ人たちのためにも、あなたの証言が必要なんです」
「つまり、あなたの正義のためですか?」
 スタイナー刑事は驚いてシャルロットを見つめた。「じゃ、あなたの正義は、わたしの正義と違うというの? 正義は一つしかないものです、違いますか?」
「いいえ、違います。正義は一つではありません」
 クルピンスキーはたまりかねて口を出した。「ブローニャ、正義について論ずるために、この方が見えられたのではないよ」
「・・・そうですね」シャルロットはちいさくため息をついた。「あなたは、どうあっても、フェリックス=ザモイスキーを捕まえたいというわけですね?」
「フェリックス=ザモイスキー第三の犯行・・・ってわけですか。確かですか?」スタイナー刑事が訊ねた。
「ええ、わたし、彼を見ましたから」シャルロットが答えた。
「彼って、フェリックス=ザモイスキーを?」クルピンスキーはぎょっとして叫んだ。
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