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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第418回

「でも、公爵さまは、あなたを愛していましたよね」エドゥワルドは優しく言った。「彼にとっては、血がつながっていてもいなくても、あなたが本当のお嬢さまだったのです。それがおわかりになりませんか?」
 シャルロットはエドゥワルドを見つめた。その目には、まだ涙がたまっていた。
「わたしたちにも、それはわかっていましたよ。もちろん、あなたにもおわかりになりますよね?」
 シャルロットはうなずいた。かの女の頬を、また涙が伝っていった。
「あなたは、彼にとってシャルロット=チャルトルィスカでした。わたしたちにとってもそうです。いまさら変えようとは思いませんし、変えられるはずもありません」
 シャルロットは泣きながら言った。「でも、本当のわたしは、いったい誰なの?」
 エドゥワルドは目を丸くした。「本当のあなたですって?」
 シャルロットはうなずいた。
「あなたは、本当のあなたですよ。ぼくが、本当のぼくであるようにね」エドゥワルドは、まるで子守歌でも歌うような穏やかな調子で言った。「たとえば、シャルロット=チャルトルィスカでも、ブロニスワヴァ=スタニスワフスカでも、あなたはあなただったでしょう? ということは、あなたがシャルロット=チャルトルィスカでなくても、ブロニスワヴァ=スタニスワフスカでなくても、あなたはあなたなんです」
「わけのわからない説明なんてやめて!」シャルロットは遮った。
 エドゥワルドは、ほほえみ続けていた。彼は、シャルロットがちいさい頃によくやったように、兄が妹にするような親しみを込めてかの女の髪の毛をなでた。「いいですか、それは、こういうことなんです。名前なんて、ただのシンボルに過ぎないんです。一人一人を区別するようにと、誰かが考え出したもので、それは便宜上の手段に過ぎません。あなたが誰であったとしても、公爵さまが愛されたのはあなたです。それで充分じゃありませんか。あなたが誰であっても、みんなあなたが好きなんです。それは、あなたがシャルロット=チャルトルィスカであるとか、ブロニスワヴァ=スタニスワフスカであるとか、そういうこととは関係ないことなんです」
 シャルロットは、エドゥワルドの目をのぞき込んだ。涙のためにぼんやりとしてはいたが、彼はいつものように優しい目をしているように見えた。彼は、不安そうに見つめるかの女に向かって優しくほほえんだ。かの女は、自分が落ち着いてきていることに気がついた。
「・・・ねえ、ぼくが言ったこと、わかったかしら?」エドゥワルドが優しく訊ねた。
「あなたは、いつも賢すぎるんだわ」シャルロットが言った。「でも、不思議ね。わたし、あなたってもっと無口な人だと思っていたわ」
「ぼくは、無口ですよね、恐らく」エドゥワルドが言った。「でも、今日みたいなときには、黙っていられなかったんです。あなたが苦しんでいるのを黙ってみているなんて、ぼくには・・・」
「慰めてくれてありがとう、エデック」
「ぼくは、慰めたつもりはありません。事実を言っただけです。だって、みんな、あなたが好きなんですもの」
 シャルロットは、涙がたまった目でエドゥワルドを見て訊ねた。「あなたも?」
 彼は赤くなってほほえんだ。「もちろんですとも」
 かの女は涙を拭いた。「ありがとう、エデック。わたし、もっともっとしっかりしなくちゃね」
 しかし、涙は次々とこぼれた。かの女は、その涙を自分でもどうしようもなかったのである。
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