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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第419回

 エドゥワルドは優しくささやいた。
「泣きたかったら、泣いた方がいいんです。でも、いつまでも泣いていないで下さいね」
 彼は、シャルロットが泣いているのを見つめているうちに、公爵一家がビアルフの別荘に行く前、公爵と話をしたときのことをふと思い出した。
『・・・ナターリアがいればいいのだが、シャルロットだけになったときが一番恐いのだ。あの子には、誰も味方がいない。わたしたちがいなくなれば、あの子は完全に一人きりになってしまう。たとえわたしがいなくなっても、あの子がわたしだと思って守ってやって欲しいんだ』
 チャルトルィスキー公爵には、あのとき、自分が死んだらこうなるだろうということがわかっていたのだ。だから、彼は、自分と父親に向かって、あんなに必死になってシャルロットを頼むと訴えたのだ。
 そして、エドゥワルドは、そのときの自分の返事も思い出した。
『たとえわたくしの命と引き換えにしてでも、必ずシャルロットお嬢さまをお守りします。わたくしは、お嬢さまの勉強相手に選ばれたときから、一生あの方のためにお仕えすると決めておりました。何があっても、わたくしの決心は変わりません』
 彼は、泣いているシャルロットを見つめていた。
『今度のビアルフ行きには、きみたちは連れて行かないことにした。勉強相手がいないんで、ブローニャはきっと寂しがると思うが、今回だけは仕方がない。わたしは、きみを助けたいんだ、エデック。そして、わたしたちにもしものことがあったとき、頼れるのはきみしかいないからだ、ユリアンスキー』
 そう、公爵は確かに《きみを助けたい》と言った。公爵は、自分たちが狙われていることを知っていた。だから、必要以上の人間を連れて行こうとはしなかった。たとえ、優秀な勉強相手でいざというときにはボディーガードになれる彼さえ同行させなかったのである。結果的に、公爵たちは、馬車に乗っているところを襲撃された。旅行に同行しなかった彼は、間違いなく公爵に命を助けられたのである。
 彼は、公爵との約束を、どんなことがあっても果たさなければならないと思った。ヴォイチェホフスキーがチャルトルィスキー公爵にしたように、彼もシャルロットが死ぬまでずっと守り続けよう、そして、必要とされるのなら、自分の命を投げ出してでもかの女のために尽くそうと決心したのである。何が起ころうとも、自分だけはかの女の味方でいようと思った。そして、それは、自分の命を救ってくれた公爵への恩返しでもあるのだった。
「・・・ぼくを信じてくれますか?」エドゥワルドは出し抜けに訊ねた。
 シャルロットは、彼の唐突な言葉に驚かなかった。
「信じているわ、もちろん。だって、あなたは、わたしにいつも親切にしてくれたもの」
「ありがとう、シャルロットお嬢さま」エドゥワルドが言った。「ぼくは、いつまでもあなたの味方です。何が起ころうと、ぼくだけは・・・」
 シャルロットはまた涙を拭こうとした。「・・・本当に?」
「ええ」エドゥワルドは、ほほえみながらうなずいた。
 シャルロットは、おずおずと手を差し出した。
 エドゥワルドはその手を取って、はっきりした口調で言った。
「誓います」
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