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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第422回

「わたしは、ジョゼフ=サヴェルネです」彼は初めて自己紹介をした。「でも、どうしてあなたの先生---ヴィエジェイスキー教授、でしたね?---は、わたしのことを知っているのかしら? それに、あなたのお父さんって誰? そもそも、あなたは誰なの?」
 シャルロットは答えた。「わたしは、シャルロット=チャルトルィスカと申します。父の名前は、ウワディスワフ=スタニスワフスキー・・・」
 その名を聞くと、彼は仰天し、シャルロットの右手を取って無言のまま胸に押し当てた。
「・・・そして、ヴィエジェイスキー教授の本名は、ヴァレリアン=ブルマイスター=ヴィエジェイスキーです」シャルロットが返事した。
「ブルマイスターが!」彼がつぶやいた。「そうか、ブルマイスターが、ウワデクの娘を・・・」
 彼にも、このコンチェルトを聴いたときに感じた懐かしさの理由がわかった。ウワディスワフの親友が、ウワディスワフの娘に、子どもの頃のウワディスワフそっくりのスタイルで演奏させていたからだったのだ!
「フランスに戻る前に、彼に会いたい。彼は、どこに住んでいるの?」サヴェルネが訊ねた。
「プラーガです。あとで、エドゥワルドに案内させましょう」シャルロットが言った。エドゥワルドは『わかりました』というようにうなずいた。
「ウワデクは、この曲が大好きでした。ご存じでしょう?」
「ええ。ヴィエジェイスキー教授から聞いています。スタニスワフスキー氏のデビュー曲だったそうですね?」
 サヴェルネは、少女が<スタニスワフスキー氏>という表現をしたことには気づかなかった。
「そうです。ウワデクは天才でした。もし、今生きていて・・・ヴァイオリンが弾ける満足な指をしていたら、きっと大ヴァイオリニストと呼ばれて、大活躍していたでしょうね。しかし、わたしには、あなたが彼以上のヴァイオリニストになるということがわかっているのです。いいですか、わたしは<なるだろう>と言ったんではありません。これは、仮定の話じゃありません」サヴェルネは言い切った。「空を見なさい。太陽が出ているでしょう? 人々は太陽に、明るさ、あたたかさ、情熱を感じずにはいられません。どうしてでしょう? それは、太陽が太陽であるからです」
 シャルロットは、サヴェルネの茶色の瞳を不思議そうにじっと見つめていた。この人は、いったい何が言いたいのだろう、と言いたげな顔だった。
「太陽は、夜の暗さを忘れさせてしまいます。だから、人々は朝に喜びを感じ、夕方にはメランコリーを伴う悲しみを感じるのです。わたしは、芸術家というものは太陽だと思っています。また、太陽でなければならないと思います。人々は、喜び、苦しみを感じます。芸術家も同じです。ですが、芸術家は、人々の苦しみや悲しみを和らげることもできます。また、できる人こそ真の芸術家です。あなたは、太陽のようにならなければなりません」サヴェルネは、自分の胸にあてていたかの女の手をしっかり握りしめた。「フランスへいらっしゃい、ブローニャ。わたしは、自分の持つすべてをあなたに教えたいんです」
 シャルロットは首をかしげた。「どうして、わたしがブローニャだと言うことをご存じなのですか?」
「だって、今度のポーランド旅行の目的の一つが、<クラコヴィアク>のブローニャに会うことだったんですからね」彼はあっさりと答えた。「ウワデクの忘れ形見を見つけ出して、フランスへ連れて行こうと思っていたのです。まさか、彼の親友のブルマイスターがあなたを教育しているとは思いませんでしたからね」
「わたし、フランスでもそんなに有名なの?」シャルロットはびっくりした。
「あなたが、というより、ウワデク=スタニスワフスキーの娘が・・・というニュアンスだけどね」サヴェルネが言った。「でも、ここに来て、<クラコヴィアク>は解散してしまったと聞かされた。そして、ブローニャは不幸な事故にあって・・・」
 サヴェルネは、その時になって初めて、シャルロットが車椅子に乗っていたことに気がついて赤くなった。
「・・・そして、この病院にいると聞いてきたのですね?」シャルロットが続けた。
「そうです。でも、まさか・・・こんなにひどいとは・・・」サヴェルネは思わず絶句した。
 シャルロットはほほえんだ。「ヴァイオリンを弾くのに、車椅子かどうかは、さほど問題じゃありませんわ」
 サヴェルネは、かの女を見ているうちに、親友のウワディスワフではない誰かを思い出しそうになっていた。
「わたしは、足を失ったわけじゃありません。いつか歩けるようになるでしょう」シャルロットは、まるでサヴェルネを慰めるように優しく言った。
「フランスに来るにせよ、来ないにせよ、これだけは約束して下さい。きっと太陽になるってことを」サヴェルネが言った。
「約束します。きっと太陽になります。いつか、きっとフランスに行きます。いつになるかはわかりませんが、いつか必ず・・・」シャルロットが言った。
 そして、シャルロットは、エドゥワルドに目で合図した。
 エドゥワルドは、サヴェルネをヴィエジェイスキー家に案内するため、彼を連れて部屋から出て行った。
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