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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第425回

「フリーツェック!」シャルロットは思わず叫んだ。
「・・・やあ、ブローニャ」
 フリーデリック=ラージヴィルがにっこりほほえんでそこに立っていた。彼はまた背が伸びたようだった。
 かの女は、見上げるようにして彼を見た。「あなたなの、お客さんって?」
「たぶん、そうだろうね。追い出されたふりをして、戻ってきたのさ」
 シャルロットは、フリーデリックを見ているうちに、自分がひとりぼっちだったということに気がついた。
「会いたかったわ」シャルロットはそう言うなり、泣き出した。自分の感情を抑えることができなかった。本当は、続けてこう言いたかった。『フリーツェック、わたし、今まで意識していなかったけど、あなたを見たとたん、あなたに会いたかったんだってわかったの・・・』
 しかし、言葉にはならなかった。かの女は、黙ったまま泣き続けた。
 フリーデリックは嬉しそうだった。「泣かないでくれよ、ブローニャ。きみって、相変わらず泣き虫なんだね」
「・・・寂しかったのよ・・・」シャルロットは、しゃくりあげながら答えた。
「それじゃ、きみもひとりぼっちだったの?」
 シャルロットは、彼が<きみも>と言ったことに気がついた。彼も寂しかったのだ。しかし、彼は笑っていた。それをぼんやりと見ていたので、かの女は彼の問いには答えなかった。彼も、自分が<きみも>と言ったことには気づいていないようだった。彼は、無意識に本音をもらしてしまったのだろう。
「ねえ、笑ってよ、ブローニャ」フリーデリックが言った。「嫌なことなんか忘れて、先のことを考えようよ」
 シャルロットは顔を上げた。「・・・先のこと?」
「そうさ、先のことさ!」フリーデリックの目が輝いた。「ねえ、きみはフランスに行くんでしょう? ヴィエジェイスキー教授は、すっかり乗り気になっているようだね?」
「彼がそんなことを?」シャルロットが訊ねた。
「彼の大の親友が、きみのフランス行きをバックアップしたいって言ってくれた、って、大喜びだった」
「そうね、行けたら行きたいわ。でも・・・」
「チャルトルィスカ公爵夫人のこと?」
 シャルロットはうなずいた。「それに、ポニァトフスキー伯爵の問題もあるわ」
「屋敷を取られたんだってね?」
 シャルロットは目を丸くした。「あなたって、何でも知っているのね。本当に、帰ってきたばかりなの?」
「うん、おととい帰ってきたんだよ」フリーデリックが言った。「きみのことは、ワルシャワ中で評判だしね」
 シャルロットは暗い顔をした。「みんな、面白がっているんでしょうね」
 フリーデリックも顔をくもらせた。そして、同情するようにかの女を見た。「気にするな、って。ぼくだって、本当は・・・」
 彼は何かを言いかけてやめた。シャルロットがその話に触れられたくないのが、彼にもわかったからだった。
「ところで、ぼくが帰ってきたのは、ワルシャワにヤロスワフ=ベックが戻ってきたって聞いたからなんだ」
「ベックって、作曲家のベック氏のこと?」シャルロットは首をかしげた。「でも、あなたは・・・」
「そう、ぼくは、ピアノの勉強をしにウィーンへ行った。そのぼくが、どうして作曲家のベックに用があるんだ、って、きみは聞きたいんじゃない?」
 シャルロットはうなずいた。
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