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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第23章

第426回

「そうよ。ピアノの勉強は、まだ途中じゃないの?」
 フリーデリックは、自信たっぷりにほほえんだ。「ぼくは、作曲を勉強することに決めたんだ。ウィーンには、作曲家になるためにピアノを勉強に出かけた。今度は、同じ理由で作曲法を勉強しに戻ってきたというわけさ」
「でも、あれから、まだ3ヶ月しか経っていないのに・・・」
 フリーデリックは、照れくさそうに笑った。
「それに、ベック氏とクルピンスキー教授と、どう違うって言うの? 彼らは、確か、フランスで同じ先生についていたって聞いているわ」
「もともとはね。でも、ベックは、アンリ=ロランから離れて、ロランとは犬猿の仲であるベルナール=ルブランの弟子になった」
「・・・ということは、ベック氏は、ノートルダム派からマルタン派に宗旨替えをしたわけね」シャルロットは考え込みながら言った。
 フリーデリックは一瞬驚いたが、すぐににっこりした。「そう、そのとおり」
「ベルナール=ルブランは、すぐれた教師だと聞いているわ。ただ、とても保守的な人なんですってね」シャルロットがそう続けた。
「・・・それ、批判なの?」フリーデリックが言った。
「・・・いいえ、そんなつもりじゃないんだけど・・・」シャルロットは口ごもった。そして、自分が口走った言葉について考えていた。そんなこと、どこから聞いてきたのだろう? フランスにいた頃、おばあさまがそんなことを言ったことがあっただろうか? それとも・・・?
「ぼくは、前衛の音楽には興味がないんだ。音楽は、実験じゃないと思う」フリーデリックが言った。「どんなに新しいものがよくても、人間は、必ず古いものにかえるんだよ」
「・・・それ、どういう意味?」シャルロットが訊ねた。
「そのうちわかるさ」フリーデリックは即答を避けた。「話を戻そうね、ブローニャ。ぼくは、きみに行くべきだと言いに来たんだ。まわりに振り回されることはないよ。きみの人生じゃないか」
「でも、ナターリア夫人を置いていくことは、わたしには・・・」
「ぼくがついているよ。ぼくには父母がいない。だから、自分の母だと思ってそばにいるよ。かの女だって、きみにフランスに行って欲しいと思っているよ、きっと」
「そうかしら?」シャルロットは考えなしに言った。
「そうさ。でなかったら、かの女は母親じゃないよ」
「でも、かの女は、わたしの本当の母親じゃないわ」
「本当の母親でなくても、母親は母親だ」
「どうして、あなたには、そんなことがわかるの?」
「わかるさ、ぼくには、母親がいないから」
 シャルロットは、はっとして彼を見つめた。
 彼は陽気に言った。「ごめん、こんなこと言ってしまって」
「ごめんなさい、こんなこと言わせてしまって」シャルロットは、わざと陽気さを装って言った。それは、この話題をもう続けるつもりがないという意思表示だった。
 そのとき、タデウシ=クルピンスキーが、エドゥワルド=ユリアンスキーを従えて部屋に入ってきた。
 クルピンスキー医師は、フリーデリックを見ると目を剥いた。
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