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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第24章

第432回

 ボーイがシャルロットの部屋にやってきた。シャルロットとだいたい同じくらいの年の少年だった。
「こんばんは。お食事はどういたしますか?」彼はドイツ語で訊ねた。シャルロットは、彼のドイツ語にかすかなフランス語のなまりがあるのに気がついた。
「・・・あの、フランス語で話してもいいですか?」かの女は、フランス語で訊ねてみた。
 彼はにっこりしてフランス語で言った。「ええ。お食事はどういたしますか?」
「お部屋に運んでいただけるかしら?」シャルロットが言った。
「かしこまりました」彼はそう言ってほほえんだ。
「あなたは、フランスの方なの?」シャルロットが訊ねた。
「はい。ル=アーヴルに住んでいます」彼は、人なつっこい笑みを浮かべた。
 反対にシャルロットは青くなった。かの女は、それでも穏やかな調子で続けた。「わたしも、ル=アーヴルに住んでいたことがあったのよ。もう、5年以上も前のことだけど・・・。あなた、10歳くらいじゃない?」
 彼は驚いた。「ええ、10歳ですが」
「わたしもそうなの。でも、5年前では、たとえ会ったことがあるとしても、覚えていないわね」
「ル=アーヴルに帰るのですか?」彼は嬉しそうに訊ねた。
「いいえ。もう、わたしを待っている人はいないの。だから、ル=アーヴルには・・・」
 それを聞くと、彼は悲しそうな顔をした。
「・・・気にしないでね。わたしのひとりごとだと思ってちょうだい」
 少年は、シャルロットが気の毒に思えたらしかった。「お一人なんですね?」
「ええ、一人旅です。これから、フランスに帰るの。もしよかったら、わたしを助けていただけないかしら? わたしは一人きりだし、車椅子に乗っているし、誰かの助けが借りられたらうれしいわ」
「わたしでよかったら」彼が答えた。「わたしは、ガストン=エルスタンと言います」
「わたしは、シャルロットよ。シャルロット=コリエっていうの」シャルロットはそう答えた。かの女は、この旅をその名前で予約していた。おそらく、船の関係者たちはかの女の名前がそれだと思っているはずである。かの女は、わざわざ本名を名乗ったりはしなかった。
「シャルロットお嬢さま・・・ですね?」
 シャルロットはほほえんだ。「二人でいるときには、ただのシャルロットよ」
 彼は首をかしげた。変なことを言うお嬢さんだ、と思ったらしかった。
 彼は部屋を出て行った。
 シャルロットは、テーブルの上に置いた楽譜をベッドの上に移し、テーブルに椅子を一つ用意した。
 まもなく、ガストンが戻ってきた。彼はワゴンに3人分くらいの食事をのせて持ってきた。そして、シャルロットの分をテーブルに並べ終えると、ほかの部屋に移動しようとした。
「ねえ、一緒に食べませんか?」シャルロットは彼の後ろ姿に向かっていった。
「わたしは、仕事が終わるまでは食べられないのです」
「じゃ、仕事が終わるまで待っているから、来てくれますか?」
 彼は驚いたが、一応うなずき、ワゴンを押して出て行った。
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