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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第24章

第437回

 やがて、車椅子のチェリストの噂が船内の人々の口に上るようになった。しかし、実際にその姿を見たひとは、ごく少数だった。かの女が自分の部屋から出ることは、あいかわらずまれなことだった。そして、付き添うのは、たいていボーイのガストン=エルスタンか、バルバラ=ヴィエニャフスカだった。
 二人の役目は、ピアノのある部屋までチェロを運ぶことだった。バルバラはピアノが弾けた。しかし、シャルロットはバルバラに伴奏してもらってチェロを弾くより、自分自身がピアノを演奏することが多くなった。
 バルバラは、新しい友人のことを、ミエチスワフにはまだ話していなかった。
 船がリューベックをたった晩、バルバラはシャルロットの部屋に行き、クラコヴィアクの話をして欲しいと頼んだ。シャルロットは悲しそうな顔をした。
「・・・無理にとは言わないわ。あなただって、話したくはないんでしょう?」バルバラは優しく言った。
 シャルロットは、バルバラの思いやりのある言葉に感謝した。かの女は、テーブルの上にあったゴシャーリンの詩集をバルバラに手渡した。
 バルバラは、本を手にとって、不思議そうな顔をした。
「この本は、ベルリンで買ったものなの。中を開けてご覧なさい」シャルロットが言った。
 バルバラは、本を開いた。しおりのかわりに、一枚の写真がはさまっていた。それを見て、バルバラは驚いた。
「まあ!」バルバラが叫んだ。「わたし、これと同じような写真を見たことがあるわ。これ、ベルリンで撮った写真でしょう?」
「ええ」
「この人、ギュンター=ブレンデルじゃない?」
 今度は、シャルロットが驚く番だった。「どうして、それを?」
「彼は、わたしのクラスメートよ」
「まあ、世界って狭いのね!」シャルロットはさらに驚いた。「ベルリンの少年と、グディニアの少女がクラスメートだったなんて!」
 バルバラが言った。「とっても利口な人だったでしょう? アンシクロペディー(百科事典)ってあだ名なのよ、彼」
 シャルロットはなるほど、というようにうなずいた。そのとおり、彼にぴったりのあだ名である。ベルリンで彼に会ったとき、彼はいろいろなことを話していた。犬のこと、木のこと、湖のこと、ベルリンの歴史、ボートがなぜ水に浮くか・・・。彼の知識は多方面にわたり、しかも正確で詳しい。開くとどんなことでも書いてある百科事典。まさに、彼は歩く百科事典だった。
「そういえば、ベルリンで会ったとき、彼は確か、<ポーランドの友人たち>という言い方をしたわ。ということは、ほかにも友人がいるということよね、かなり<クラコヴィアク>に詳しい男性の友人を含む、友人たちが・・・?」
「ええ、もう一人だけいるわ。ミエチスワフ=レショフスキー。知っているでしょう?」
 シャルロットは驚いてうなずいた。「ええ、会ったことはないけど・・・」
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