FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第2章

第43回

 図書館で別れてから、クラリスはエマニュエル=サンフルーリィのことを考えていた。その足でレマン湖に行く気分ではなくなっていた。かの女は、寮に引き返した。
 その直後から、クラリスの頭の中は音符でいっぱいになった。かの女は、作曲に気を取られて、部屋に閉じこもったきりになった。同室のリディア=ロランは、クラリスのそんな生活ぶりにはもう慣れっこになっていたので、食事を部屋に運び、折を見て食べるように勧め、片づけをした。クラリスは、気が向いたときに食事をしたが、音符を書くのに支障が出る食べ物には手をつけなかった。
 作曲をしているときのクラリスは、まわりで起っている出来事には一切関心を持たなかった。リディアが何をしようと気にしなかったので、リディアは必要以上にクラリスに気を遣わなくてすんだ。もっと神経質な作曲家だと、まわりで物音一つたてられないくらい緊張させられたりするものだが、クラリスの場合、集中していれば耳元でシンバルを鳴らしても気にしなかったろう・・・とリディアは思ったものだ。
 ただ、リディアは、クラリスに学校へ行くことを強制的に思い出させなくてはならなかった。無断で授業に出席しないと、クラスに籍がなくなる決まりになっていたからである。
 新学期が始まってまもなくのスコア=リーディングの時間、担当のフランキュイユ教授は、いつものようにお気に入りのクラリスを真っ先に指名した。この日のためにランディ教授が書いた「オーケストラのための小組曲」が課題であった。作曲に集中していたクラリスが予習をしてくるはずはない。リディア=ロランは、はらはらしてクラリスを見つめた。
 クラリスは、いつもになく青い顔をしていた。指名されて、ゆっくりと立ちあがったかの女は、ピアノに向かって歩き出そうとした。かの女は、床が揺れたような気がした。目の前のものが奇妙にゆがんでいた。遠くの方にクラウス=レヴィンがいた。アレクサンドリーヌ=ド=ティエ=ゴーロワが立ちあがったように見えた。
「クラリス!」アレクサンドリーヌが叫んだ。
 クラリスは、その場に前のめりになって倒れた。
 気がついたとき、クラリスは寮の自分の部屋のベッドの上にいた。アレクサンドリーヌとリディアの二人が枕元で心配そうに様子をうかがっていた。
「気がついたのね、よかったわ」アレクサンドリーヌが言った。「ずっと寝ていないんですってね。ゆっくり眠るとよくなるそうよ」
「ありがとう、リネット」クラリスが言った。かの女は、再び眠りに落ちた。
 アレクサンドリーヌとリディアは、机の上の五線紙の山を見つめた。
「これ全部、この二週間で書いたのよ。かの女、熱中するたちだし、授業をさぼったりしないから、疲れていたんでしょうね」リディアが言った。「どうやら、交響曲とピアノコンチェルトだわ。同時に書いていたのかしら?」
「クラリスは、自分が疲れていることに気がついていなかったのね」アレクサンドリーヌは、自分のことのように心を痛めていた。
 二人は、学校に戻るために、クラリスの部屋を出た。
 門の所に、クラウス=レヴィンが立っていた。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ