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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第24章

第444回

「イスカリオテのユダね?」シャルロットは冗談半分に言った。
「まあ、そう言っておきましょうか」ガストンの方は真面目な顔をしていた。「結局、裏切り者の存在のために、あの研究者たちの集団は、イエズス=キリストと12人の弟子たちと比較されることになったんですからね」
「ねえ、そろそろ、その<イエズス=キリスト>の正体を話して下さらない?」シャルロットが言った。「彼は、なんという名前なの、ガストン?」
 彼は驚いたように言った。「あれ? 言わなかったかしら? ルイ=アントワーヌ=ド=ラ=ブリュショルリーというんです」
「ルイ=アントワーヌ=ド=ラ=ブリュショルリー?」シャルロットはおうむ返しに言った。「・・・ああ、その名前は聞いたことがあるわ」
「あのドクトゥールは、本当に尊敬に値するような人物でした」
「・・・でした、って言ったわね・・・?」
「ええ、言いました。彼は亡くなったのです」
「亡くなった? まさか、33歳で?」
「まさか。彼は亡くなったとき、31歳でした。1907年7月13日のことでした。でも、もちろん、金曜日じゃありませんからね」
 そう言って、ガストンもいたずらっぽく笑った。シャルロットは顔を上げて、ガストンを困ったように見た。
「彼は、交通事故で死んだのです。彼が乗っていた車は、道路から転落して海に落ちたのです。運転手のミスだと思いますが、目撃者がいなかったので、発見が遅れました。そこは、高い崖になっていて、運転手の死体は、翌日近くの海岸に打ち上げられているのを発見されたのですが、彼と、一緒に乗っていたお嬢さんの二人は、とうとう見つかりませんでした。あれから、もう、5年になるんですね」彼はしみじみとした口調で言った。もう冗談ではなかった。「事故の現場には、看板が立っています。ル=アーヴルです。もし、ル=アーヴルで降りるのなら、わたしのかわりに、彼らのために花束を持っていってもらえないでしょうか?」
「あなたは降りないの?」シャルロットが訊ねた。
「わたしは、最終目的地のサン=ナゼールまで行きます」
「わかったわ。行ってみるわ」シャルロットが言った。かの女もそこに行きたかった。もし、自分がその時に死んだことになっている女の子なら、そこで何か思い出せるかも知れない・・・。
「彼らのエピソードが、キリストの話と違うのは、裏切り者が出たのが<キリスト>の死後のことだったという点です。その裏切りというのは、彼の死とは直接の関係はないのです」
「それじゃ、ユダと一緒にしたら気の毒だわ」シャルロットが同情をこめていった。
「でも、彼が裏切ったという事実は変わりません」ガストンは、逆にきつい口調で言った。
「あなたは、その<キリスト>が好きなのね・・・」
「ええ、もちろんです。彼に会ったことはありませんでしたが、わたしにとって、彼はこの世で尊敬できる唯一の人物なのです。わたしは、彼のような人間になりたいと思っています」
「彼は、立派な方だったのね・・・」
 ガストンはうなずいた。
 食事が終わり、ガストンは立ちあがった。
「疲れたでしょう、シャルロット。これからは、わたしは毎日ここに来ます。約束します。ですから、あなたもちゃんと食べて、体力をつけて下さいね」
 そう言うと、彼は食器を下げて出て行った。
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