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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第24章

第446回

「・・・それで、わたしはステーキになってしまったのね?」シャルロットは、バルバラから口喧嘩の顛末を聞き、あきれて言った。「・・・味の付いていないステーキ、ですって? 言いたいことを言うのね、あのドクトゥール。でも、二度とそんなことは言わせないわ」
「どうするの?」バルバラが訊ねた。
「ポーランドのピアニストをばかにするのは許せないわ。わたし、ピアノを弾きます。土曜日に、ワンダ=レヴァンドフスカと一緒にチェロを演奏することになっていたんだけど、ピアノを弾かせてもらえるように頼んでみるわ」
 バルバラはうなずいた。
「もちろん、ペダルなしで、よ」シャルロットが言った。
「ペダルを使わなくても、あなたはブローニャ=スタニスワフスカだわ。いったい誰が、あなたにけちをつけられるの?」
「ありがとう、バーシャ」
 バルバラが自室に戻ると、シャルロットは車椅子を自分で押して船のデッキに出た。
 美しい夕焼けが広がっていた。かの女は、ガストン=エルスタンがこの前のように夕日を眺めているのに気がついた。突然、彼は振り返った。かの女はとっさに逃げようとした。
「シャルロット!---逃げないで! こっちへおいで!」彼は走ってきてかの女を捕まえた。
 彼は息を切らしながら言った。「きれいな風景じゃないですか。どうして逃げたの?」
「・・・この前みたいになるのがいやだったの」
「あなたを一人にはしない、って約束したでしょう?」ガストンが優しく言った。「それより、どうしてここに来たの?」
「フランスが見えるかと思って」
 彼は真意を確かめようとするかのようにかの女を見つめた。
「・・・でも、フランスは遠いのね・・・」
「遠いですよ」ガストンも遠くを見つめた。
「あなたは、どうしてここに来るの?」シャルロットが訊ねた。
「もう、日課になってしまいました。でも、メランコリックな気分になりたいというような気持ちからじゃありません。もちろん、故郷を思い出しているわけでもないです。わたしは、夕日にこう誓うのです。《わたしには、希望を持つ権利がある。おまえのように絶望はしない》ってね」
「《わたしには、希望を持つ権利がある》」シャルロットはおうむ返しに言った。「これが、あなたの強さの秘密なのね?」
「秘密だなんて・・・。わたしは、弱い人間です。でも、人には、その弱さを見せたくはありません。だから、あなたを避けたのです。でも、わたしは、今は弱いことを誇りに思うようになりました」
「あなたは強いわ」シャルロットが言った。
「いいえ、強がりを言っていただけです。あなたに強い人間だと思っていてほしかったんです」
 シャルロットは遠くを見た。昔、誰かが『強い人間になりたい』とかの女に向かって言ったことがあったような気がした。しかし、どうしても思い出すことができなかった。それで、かの女はガストンのことを考えた。彼は、これまでかの女が知っていた男の子たちとは違ったタイプの少年だった。同じくらいの年の少年で、これほど大人びた少年は、これまでにいただろうか?
「さあ、もうすぐ夕食ですよ」彼は元気よく言った。
「じゃ、この続きは、後でゆっくり聞かせていただくわ」
 彼は首をかしげた。「続きなんてあるんですか?」
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