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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第25章

第449回

 レヴァンドフスキー姉弟は、不安を隠せない様子で医者を見つめていた。
「コンサートは、どうなるんでしょう?」訊ねたのはレヴァンドフスキーの方だった。
「心配いらないよ」彼はドイツ語で答え、顔を引っ込めた。
 医者がそばに戻ってきたとき、シャルロットはふるえていた。
「ドクトゥール・・・わたし、ドクトゥール=デュシャーブルには診てもらいたくありません」
 彼はくすくす笑った。「あのステーキのことでかい?」
「まあ・・・!」シャルロットは目を丸くした。それから、かの女は真面目な顔をした。「わたし、あなたを信頼しています」
 彼も真面目な顔をした。「さっきも言ったがね、あなたの足は、わたしには治せないんだよ。それなら、わたしがついていても・・・」
「きっと、ドクトゥール=デュシャーブルにだってそうです」シャルロットが言った。「わたし、知っているんです。この足を治せるのは、フランスのブリューノ=マルローという外科医だけだって・・・。わたしのポーランドでの主治医のドクトゥール=クルピンスキーは、そう言いました。わたしは、それを信じて船に乗ったのです」
「ブリューノ=マルロー?」彼はびっくりしたように言った。「・・・じゃ、まさか、クルピンスキーって、タデー=クルピンスキー?」
 シャルロットはうなずいた。
「わたしは、彼らの友人だった、大学のときに・・・」彼は何かを思い出すような表情をした。「この夏、ワルシャワで、久しぶりにタデーに会ったがね・・・」
 彼は、はっとしたようにシャルロットを見つめた。「・・・あなたは、まさか、<クラコヴィアク>のブローニャ?」
 シャルロットは思わず体を硬くした。
「・・・ワルシャワで、タデーが言っていました。彼のところに、気の毒な患者がいる、って。ちいさい頃からよく知っている子だけど、今度ばかりは彼の手には負えないんだ、って・・・なんだか悲しそうに言った・・・。彼があんな風な顔を見せたのは初めてだったんで、わたしは何も言えなくなってしまってね」彼は小さな声で言った。「・・・で、彼は、親友のブリューノに頼ろうとしたんだね。でも、大丈夫、ブリューノには実力がありますからね」
「でも、彼はもう外科医じゃないって・・・」
 彼はびっくりしたような顔をした。「誰が、そんなことを! いいですか、ブリューノを信じて下さい。そして、タデーを。あなたの足は、きっとよくなります」
「ええ、信じるわ。あなたを信じるように」シャルロットが言った。
 彼は、何とも言えない表情をした。彼を知る人間なら、彼が照れているのだとわかったが、シャルロットには彼が困っているように見えた。
 そのとき、ガストン=エルスタンが真っ青な顔で戻ってきた。
 医者は、ガストンの手からコップを受け取った。「ありがとう、ギャルソン。さあ、薬を飲みなさい、シャルロット」
 ガストンは、シャルロットが薬を飲み終わるまでかの女を見守っていた。
「心配しないで、ガストン。・・・ちょっと気分が悪かっただけよ」シャルロットがフランス語で言った。
「そう、もう大丈夫だ」ドクトゥール=クチュリエもフランス語で言った。「さあ、ステージに戻りなさい。みんな、待っているよ」
「ありがとうございます」
 彼は何か書いた紙をシャルロットに手渡した。「連絡先だ。何かあったら呼びに来てくれ。もっとも、何もないことを祈っているけどね」
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