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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第25章

第453回

「・・・船は、明日の昼過ぎにル=アーヴルにつく予定です」船長がシャルロットに言った。「最後の晩になってしまいましたね。今晩、もう一度チェロを弾いて下さるんでしょう?」
 シャルロットはほほえんだ。かの女は、船長のグレイのひげを見ていた。そして、質問には答えずに、反対に質問した。
「もう何度も航海なさったんですってね?」
 船長は懐かしそうに答えた。「初めて船に乗ったのは、ちょうどガストン=エルスタンくらいの年の頃でした。当時は、彼のように、ギャルソンと呼ばれて、ボーイの仕事をしていました。初めての航海は、マルセイユからギリシャへの旅でした。しばらくは、地中海で仕事をしていました。それから、アメリカに行きました。それに、中国にもね。それに、戦争にも行きました・・・」
「中国には、戦争で・・・?」
「残念ながらね・・・」
「あとは? インドには?」
「もちろん、行きましたとも」船長が答えた。「そうそう、インドでは、象を見ました」
「ゾウ?」シャルロットには初めて聞く単語だった。「象ってなんなの?」
「ものすごく大きな動物です。わたしの身長よりももっと背が高くて、わたしが両手を横にひろげても届かないくらい大きな体をしています。そして、長い鼻の持ち主です。その鼻は、人間の手みたいによく動くんです。何でもつかめるんですよ」
 船長はポケットから手帳を取り出し、おかしな形の動物の絵を描き始めた。シャルロットはそれをじっと見て、驚いて叫んだ。
「まあ! そんなに長いの?」
 彼は笑い出した。「ええ、本当ですとも」
 そこへ、バルバラ=ヴィエニャフスカがやってきた。
「ここにいたのね。探したわ」
 シャルロットは落ち着いた口調で言った。「船長さんに、象の話をしてもらっていたの」
「ゾウ?・・・あの鼻が長い動物の象のこと?」
 シャルロットは、船長の手帳を指さした。「じゃ、これ、本当のお話なの?」
 船長は、傷ついたふりをした。「わたしは、何でも見てきたんですよ、お嬢さん」
 そして、彼は手を振って、その場を去っていった。
「・・・もう一度ステージに上がるんですって?」バルバラが訊ねた。
「ええ、そうするわ」シャルロットが答えた。「そして、シャルロット=コリエのまま船を下りるわ。降りたあとは・・・。でも、変ね。フランスを出るとき、わたしはフランス人だったけど、フランスに戻ってくるときには、ロシアのパスポートを持っているんですもの」
「フランス人だったの?」バルバラが訊ねた。
「ウワディスワフ=スタニスワフスキーは、フランス人だったのよ。わたしは---いいえ、ブローニャ=スタニスワフスカは、ポーランド在住のフランス人として生まれ、フランスで育って、ポーランドの母親の元に行き、母親の再婚相手の養女としてロシア国籍を取ったの。でも、国籍はロシアだけど、ポーランド人よ」
 バルバラはうなずいた。「わたしたちは、ポーランド人だということを誇りに思うべきよ」
「そうね」シャルロットも同意した。
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