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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第2章

第44回

「こんにちは」クラウスは二人に声をかけた。
 二人は、びっくりして顔を見合わせた。
「ぼくは、クラウス=レヴィン。あなたたちは、クラリスの所から来たんでしょう? かの女の具合はどうですか?」
 クラウス=レヴィンの名前を聞くと、二人の少女は動揺し、また顔を見合わせた。
「クラリスの言うとおり、ぼくは、相当悪名高いようだ。あなたたちを襲ったりはしませんよ、お嬢さんがた」クラウスは苦笑しながら言った。「ぼくは、クラリスの味方です。作曲コースに所属していて、クラリスとはスコア=リーディングのクラスで一緒です」
 二人はうなずいた。自分たちのクラスに彼がいることは知っていた。ただ、話をしたことは一度もなかったのだが。
「さっき、授業中に、かの女が倒れたでしょう? 目の前で起ったことだったので、心配だったんです。それで、ここまで来てしまいました。あなたたちは、クラリスの親友でしょう? ねえ、クラリスのこと、話してもらえないかしら?」
 少女たちは、考え込む様子を見せた。
「ぼくがかの女を心配している、って、信じられない?」
 アレクサンドリーヌは、彼の表情を見て、彼を信じる気になった。こんなに心配そうに見つめているその目に偽りがないと思ったのである。
「クラリスは、疲れているだけです」アレクサンドリーヌは、すみれ色の目をまっすぐに彼に向けた。「かの女は、交響曲とピアノコンチェルトを同時に作曲していたようです」
「同時に?」
「かの女にとって、ピアノコンチェルトは特別なんです」アレクサンドリーヌが言った。「たぶん、何かあったんですね、かの女にか、かの女のまわりに・・・」
 クラウスは、真面目な顔で訊ねた。「何があったか、御存知ですか?」
 二人の少女は、ほぼ同時に首を横に振った。
「クラリスは、自分のことを、あまり話すひとじゃないんです」リディアが答えた。「かの女の気持ちは、作った曲に出ます。それしか判断材料がないことも、珍しくはないのです」
 クラウスはうなずいた。
「ピアノコンチェルトを見た限りでは、何か・・・悩みがあるように見えました」アレクサンドリーヌが言った。「かの女自身か、かの女のまわりに、何か苦しいこと・・・があったんでしょうね。何かはわからないのですが・・・」
 クラウスは、真面目な顔をして二人を見た。「クラリスには、ぼくがここに来たことを言わないで下さい」
「どうしてですか?」
 クラウスは、悲しそうな目をしてクラリスの部屋の方を見た。「・・・どうしても、です」
「わかりました」アレクサンドリーヌが答えた。
 クラウスは、もう一度かの女の部屋の方を見てから去っていった。
 アレクサンドリーヌは、その後ろ姿を忘れることはできなかった。クラウス=レヴィンは、確かに変わり者かもしれないが、それは、彼が普通の人と比べて繊細なためそう思われているかもしれない・・・かの女はそう思った。そして、彼に同情した。もしかすると、この人はクラリスを愛しているのかもしれない。しかし、クラリスの方はどうなのだろうか・・・? かの女は、自分の兄のゴーティエがクラリスを愛していることに気がついていた。クラリスにとって、この二人の男性のどちらがふさわしいだろうか?
・・・そして、思ったのである。クラウスは、相当思いつめている。あんな悲しそうな後ろ姿を見たことはない。親友の自分は、クラウスを応援するべきだろう。兄には気の毒だが。
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