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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第25章

第454回

 シャルロットはちょっと考えてから続けた。
「わたしにとって、演奏する、ということがポーランド人としての証だったわ。ポーランドの大地にしっかりと根を下ろしているあのリズムの中に自分を置くことは、自分の存在がポーランドそのものだということを意味していたのかも知れない。『ぼくたちとポーランドを結ぶものは何もないんだよ』ってフリーデリックが言ったとき、それもまた真実だと思ったけどね・・・。ポーランドとわたしとは、実は結ばれてはいないのかも知れない。でも、ポーランドはわたしの中で生きている・・・そう思っているわ」
 バルバラはうなずいた。
「だから、わたしは、自分がポーランド人であることに誇りを持っていると言えるんじゃないかしら?」シャルロットが言った。「みんな、自分なりのやりかたでポーランドを愛しているわ。わたしはわたしなりに、あなたはあなたなりに、フェリックス=ザモイスキーは彼なりに・・・。わたしは彼のように生きることはできないし、彼にしても、ああしか生きることができなかったんでしょうね・・・」
 バルバラは緊張した表情で言った。「あなたにとって、フェリックス=ザモイスキーって何なの?」
「・・・人生の途中で交差してしまった一人の愛国者、かしら?」シャルロットが答えた。「すれ違うことしかできなかったけど・・・」
 バルバラはびっくりした。「フェリックス=ザモイスキーを愛国者だというの?」
「・・・でなかったら、ただの人殺し? ただのテロリスト?」
 バルバラは首を振った。「まさか、彼を弁護するの?」
「弁護士がいなかったら、公正な裁判はできないわ」
「だからって、あなたが彼の弁護をする必要はないわ。あなたは、被害者なのよ!」
「そして、ある意味では加害者ね」
「わたしたちが豊かな家庭に生まれたのは、わたしたちのせいじゃないわ」
 シャルロットは穏やかに言った。「あなたの言うとおりだわ。話題を変えましょう」
「それがいいわ」バルバラも素直に応じた。
「今晩のコンサートは、レヴァンドフスカ女史との共演よ。いつか二人で弾くことになっていたデュオなの。そのあとで、かの女が何か演奏することになっているわ」
「オッフェンバックだったわね、確か?」
「ええ」
「いい演奏を期待しているわ」
「ありがとう、バーシャ」
 バルバラは、ポケットからロケットを取り出した。
「約束だから、これはあなたに返すわ。あなたがクラコヴィアクのブローニャの名前をまたよみがえらせるのを楽しみにしているわ」
 シャルロットはロケットを受け取り、ポケットにしまった。「もう、落としたりしないわ」
「あなたには、また会えるかしら?」バルバラは思わず涙ぐんだ。「あなたは、グルノーブルでヴァイオリンの修行をするのよね。そして、有名になって、またポーランドへ帰っていくんだわ。もう、二度と会えないかも知れないわね・・・」
 シャルロットは首を横に振った。「もし、わたしが、そうしたくないと言ったら?」
 バルバラは怪訝そうな顔をした。
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