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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第25章

第455回

 シャルロットは車椅子をバルバラの前に向けた。そして、神妙な顔でこう言った。
「わたしね、あなたに謝っておかなくちゃならないの。わたし、あなたをだましていたの」
 驚いているバルバラの前で、シャルロットはマスクを取った。
「わたしね、<変装>していたの。正体がばれないように・・・」
 バルバラはシャルロットの両手を握りしめた。「あなたは、これで、本当にわたしを信用してくれた、って思っていいのね?」
 シャルロットはびっくりした。「怒らないの?」
「わたしたち、友達よね?」バルバラが訊ねた。
「ええ、あなたがそうしてくれるって言うのなら・・・」
「もちろん、そうしたいわ!」バルバラが言った。
 シャルロットは思わず涙ぐんだ。「あなたは、わたしの初めての女友達よ。何があっても、わたしたちは友達よ。わたしたちは、決して別れることはないのよ。たとえ、どんなに離れたところで生活しようと、わたしたちは、いつまでも一緒なのよ」
 シャルロットは、ポケットからハンカチを出した。「今、書くものを何も持っていないの。ここにペンがあるから、あなたの連絡先を書いてちょうだい。わたしも、グルノーブルに落ち着いたら、きっと手紙を書くわ」
 バルバラは、シャルロットのハンカチに、ミュラーユリュードの住所を書いた。
「わたしたち、きっとまた会えるわ」バルバラはそう言って去っていった。
 その晩、コンサートが終わったあと、シャルロットはレヴァンドフスキー姉弟の部屋に招待された。
「明日には船を下りるのね。もう本当のことを話してくれるわね、ブローニャ?」レヴァンドフスカが言った。
 レヴァンドフスキーは姉をにらみつけた。彼が抗議する前に、シャルロットはマスクをはずした。
「わたしは、あなたが考えておられたとおり、シャルロット=チャルトルィスカです」
 レヴァンドフスカは、ほっとしたようにため息をついた。
「わたしは、あなたがたをだますつもりじゃありませんでした。わたしは、過去の思い出なんか欲しくないんです。それに、わたしは、本当はシャルロット=チャルトルィスカではなかったのです。いいえ、シャルロット=チャルトルィスカであるかもしれないけど、ブローニャ=スタニスワフスカではなかったのです。詳しい話はあまりしたくないのですが・・・」
「あなたは、クラコヴィアクのブローニャじゃないの?」
「いいえ、そういう意味ではなく、わたしは、ウワディスワフ=スタニスワフスキーの娘じゃなかったのです」
 その話はレヴァンドフスキー姉弟を驚かせた。二人はとっさに何も言えなかった。
「・・・そうでしょうね。わたしも、初めて聞かされたときには、理解できなかったのですからね」シャルロットは優しく言った。「わたしは、とにかく逃げようとしていたのです」
 レヴァンドフスカが言った。「わたしたちならば、あなたの苦しみを少しくらいはわかると思うの。わたしとウワデクはずっと二人きりでした。苦しんだことがある人には、ほかの人の苦しみもわかるものだわ」
 シャルロットはうなずいた。
「だから、わたしたちには、あなたに助言を与える資格は充分にあると思うわ。過去を振り返ることはいつでもできるわ。だから、努めて前を見るようになさい。<アン=ナヴァン(前へ)>・・・これが、わたしからあなたへ贈る言葉よ」
 ドイツ語の中に入っていたフランス語の<アン=ナヴァン>という言葉は、シャルロットには妙にどっしりと聞こえた。この言葉がこれほど印象的に聞こえたことがあったかしら、とシャルロットは考えた。
 部屋を出てから、シャルロットはずっとその言葉を考えていた。
<前へ!>
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