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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第25章

第459回

 青年には、シャルロットがなぜ気分を害したのかわからなかった。
「ぼくには、本当に悪気はなかったのです・・・」
 シャルロットは容赦しなかった。「わたしは、お金がほしくて弾いていたんじゃありません!」
「でも、ぼくは、どうしてもあなたに感謝したかったんです・・・」
 シャルロットは、右手でヴァイオリンの弓をきつく握りしめた。青年は、シャルロットがますます怒りを募らせている様子を見たが、それをなだめるすべを知らなかった。
「・・・お嬢さん、あなたはもう少し寛大になるべきですね」たまりかねてアンリ=シャルマンが口を出した。
 シャルロットは疲れていたためか、感情を抑えることができなかった。
「あなたには関係のないことです」シャルロットは激しく突っぱねた。
「わたしは、ヴァイオリニストの価値がわかる人間のつもりですよ」シャルマンは穏やかに言った。「わたしには、関係なくないつもりです。わたしは、音楽評論家のアンリ=シャルマンと言います」
 青年と少女は、きょとんとしてシャルマンを見つめた。
「この人は、わたしたちみんなを代表して、あなたの演奏をほめようとしただけなんです」シャルマンは続けた。「全財産5フラン1サンティームのうち、5フランをあなたのために手放そうとしたんですよ。1サンティームでは、パリまで食事さえろくに取ることができないのに、それでも5フランをあなたに渡したかったんですよ・・・」
 青年は恥ずかしそうに下を向いた。
 シャルロットは反論した。「じゃ、わたしが彼に5フラン渡しましょうか? この誇り高い男性が、わたしの手から施しを受けたがるはずはありません。わたしだってそうです。わたしは、彼から、そんな大金を受け取るようなことはしていません」
「大金ですって? たった5フランが?」シャルマンが言った。
「あなたは、彼にとって5フラン1サンティームが全財産だ、とおっしゃったばかりでしょう?」シャルロットが皮肉めいた口調で言った。
 青年は赤くなった。「ぼくは、あなたから5フランを受け取るいわれはない。しかし、あなたは、ヴァイオリンを弾いたんです」
「ですから、お金が目的ではない、と言ったでしょう?」シャルロットはいらいらしていた。
 何気なく青年を見たエミール=ショーソンの顔が、信じられない、という表情になった。
「ぼくは、あなたに、お金ではなく、真心を受け取って欲しいんです」青年が言った。
「じゃ、真心だけいただくわ」シャルロットは、ケースから5フランを取り、青年の目の前に突き返した。
「ですから、この5フランは・・・」青年が言いかけた。
「まもなく、パリ行きが到着します!」駅員が遠くで叫んでいた。
「そうだ、取引をしたら?」エルネスト=マンソンが口を出した。
「取引ですって?」シャルロットが言った。
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