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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第26章

第462回

 1912年9月13日金曜日、ミュラーユリュードのサント=ヴェロニック校では、2年7組の生徒が朝から大騒ぎしていた。このクラスは、ただでさえにぎやかなクラスだったが、この日の騒ぎは特別だった。なぜならば、彼らの担任のルネ=ペルメーテルが、前日事故で亡くなったという知らせが飛び込んできたからであった。
 全寮制であるこの学校だが、どういうわけか外部から持ち込まれた新聞を囲んで、生徒たちは大声でそれぞれ自分の意見を言い合っていた。
「静かに!」ロジェ=ガリュベールが大きな声で叫んだ。彼は、新聞を振り回しながら教壇に向かった。そして、演説口調で言った。「とにかく、まず情報からだ。記事を読むから、みな、静かに聞くように!」
 その場にいた全員が彼の方に注目した。
「《パリ、12日---午前6時頃、サン=ジェルマン=アン=レー付近で、乗用車が、対向車とその後ろを走っていた馬車に衝突した。この事故のため、7人が死亡、1人が重傷を負って近くの病院に運ばれた。死亡者の氏名は、次の通りである。馬車に乗っていた農場経営者エドモン=リュー(48)、その前の車に乗っていたマルセイユ出身の建築家ロベール=ディラン(40)、妻のマドレーヌ(34)、息子のセバスティアン(16)。そして、衝突した車に乗っていたミュラーユリュードの教師ルネ=ペルメーテル(48)》・・・」ガリュベールがそこまで読み上げると、女子生徒たちが悲鳴に似た声を出し、泣き出した。ガリュベールはかまわずに続けた。「・・・《妻のマリー(48)、息子のドミニック(18)。重傷を負った女の子は前の車両に乗っており、意識不明のため名前などはまだ確認されていない。事故の原因は、ペルメーテル氏が運転していた車両が、朝日のために対向車が見えにくくなったためではないかと思われている。》」
「じゃ、アヴィが6人殺した、って言いたいのか?」誰かが抗議するように言った。<アヴィ>というのは、ペルメーテルのあだ名であった。
 この声で、教室はまた大騒ぎになった。
「ほかの新聞も、みんなそう言っているの?」サルヴァドール=クートンという少年は、落ち着いた口調でガリュベールに確認した。
 ガリュベールは手元にあった3紙をすべて朗読した。「・・・おおむね、みな同じ論調だな。いわゆる、警察発表がニュースソース、らしいね」
「彼は、本当に死んだの?」誰かが聞いた。
「新聞が正しければね」ガリュベールが答えた。
「そんなの、信じられるか。だいたい、あの男でも死ぬのか?」コルネリウス=ド=ヴェルクルーズが皮肉めいた口調で言った。そのまわりにいた人たちが笑い出した。
「アヴィは以前こう言った。《かのアレクサンドロス大王にも、勝てない敵が一人だけ存在した。それは、死という名前の強敵であった。どんな英雄も、その敵に勝利できるものはいない》・・・」ペルメーテルは、歴史の教師である。彼は、授業でそんなことを話したことがあった。
 コルネリウスは遮った。「アヴィも、かのアレクサンドロス大王と一緒にしてもらって、さぞかし光栄なことだろう」
「まあ、そう皮肉を言うなって」サルヴァドール=クートンが友人をたしなめた。
「だいたい、彼は、死んだ兄さんの葬式に、わざわざサン=ジェルマン=アン=レーまで行ったんだろう? そこで、自分の葬式まで出すことになったんじゃ、しゃれにもならないじゃないか!」コルネリウスがさらに言った。「このクラスはどうなるんだ? まさか、誰かほかの先生が抑えに来るのかな?」
「安心しろ。きみほどの人間を抑えることができるやつなんか、この学校にはいないよ、マルフェ」サルヴァドール=クートンが真面目な顔をして言った。
 また笑い声が上がった。
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