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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第26章

第464回

 コルネリウス=ド=ヴェルクルーズは、特別外出許可をもらった。全寮制のこの学校では、決まった日にしか外出できない。それ以外の日は、きちんとした理由か、誰かの付き添いがなければ校外には出られない。コルネリウスには<きちんとした理由>はなかったが、<魅力ある外出先>を持っていた。彼が付き添いに選んだのは、校医のリュシアン=ワッセルマンだった。ワッセルマン医師は、この学校で最年少の職員だった。医者の資格を持っていたが、専門は心理学のカウンセラーだった。彼が校医になったのは、生徒たちと年齢が近く、相談役になれると思ったからだった。コルネリウスが彼のところに行ったのは、彼が好奇心のかたまりで、コルネリウスの話に興味を持つだろうと思ったからではない。彼には、研究所に親友がいたからである。
 翌日の2年7組は、裁判所のような雰囲気になっていた。
 裁判長役は、フランソワ=ジュメールだった。コルネリウスは、さしずめ被告側証人、といったところである。
 いわゆる検事役のサルヴァドール=クートンがコルネリウスに訊ねた。
「あなたが<きづたの家>で聞いてきたことを話して下さいますね?」
<きづたの家>というのは、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーの研究所と住居をひとまとめにさす固有名詞になっていた。そこは、ドクトゥールの死後は、住居は秘書だったマドレーヌ=フェラン(結婚後ディラン夫人となっていたが)、研究所はブリューノ=マルロー・アンブロワーズ=ダルベール両博士が共同で運営していた。
「ぼくは、きのう、あそこに行ってきました。そして、いろいろ確かめてきました。ただ、ぼくが考えていたのとは全然違う結論を持ってきました・・・」コルネリウスが言いかけた。
「で、その結論とは?」サルヴァドールが訊ねた。
「まあ、あわてないで。一つずつ答えるからね」コルネリウスは、親友に向かってなだめるような口調で言った。
「あの少女は誰なんですか?」サルヴァドールが訊ねた。
「研究所を訪ねたとき、かの女は、シャルロット=チャルトルィスカと名乗ったそうですよ」それを聞くと、バルバラは青くなった。コルネリウスは続けた。「かの女は、ブリューノ=マルローに一通の手紙を渡したそうです」
「では、なぜかの女は車に乗ったんですか?」
 コルネリウスは<困った人だ>と言いたげに親友を見つめ、こう言った。「質問の順番を変えて下さい。あとで必ず答えますから」
 彼自身にはずうずうしく振る舞っているつもりはないのだが、この一見ふてぶてしく見える態度のせいで、彼は<マルフェ>などというありがたくもないあだ名をもらっているのである。
「かの女は、車椅子に乗っていたそうです。歩けるようになることが、今回のフランス旅行の目的の一つでした。ドクトゥール=マルローは、足を診察して、治すことは可能だと答えたそうです」
 バルバラの顔が少しだけ明るくなった。
「ただし、長い間医学から遠ざかっている自分より、現役の外科医に診てもらった方がいい、と彼は言ったそうです。そして、彼が推薦したのは、マルセイユのドクトゥール=ルフェーブルでした」コルネリウスが言った。「それを聞いていたディラン氏は、この機会に一緒にマルセイユに行かないか、と新婚の妻に言ったのです。ディラン氏は、マルセイユ出身ですから。それで、ディラン一家がプランセスを連れてマルセイユに向かった・・・いや、プランセスの付き添いのために一家がマルセイユに向かったのです」
 コルネリウスは一息ついた。
「ですが、このザレスキー家の姫君は、古くから研究所にいた人たちを動揺させたそうですよ。ぼくも、1週間前に撮られた写真を見て動揺したくらいですからね・・・」コルネリウスが続けた。
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