FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第26章

第470回

 スール=コラリィの子ども時代の名前は、シャルロット=ランブールといった。ランブール家には7人の子どもがいた。シャルロットは兄弟の中で一番下で、しかも最初に生まれた女の子だった。そういうわけで、かの女は両親からも兄たちからもかわいがられて育った。その女の子の人生は、偶然隣に引っ越してきたヴァイオリニストの存在で一変した。そのヴァイオリニストは、オーギュスト=デュランという名前だった。彼はソリストとしてより、カルテットのメンバーとして有名な存在だった。彼は、ある日、隣の家の6歳の女の子の演奏を聴き、かの女に無料で教えたいと申し出たのだった。かの女の両親は、かの女がヴァイオリンが好きなことを知っていたので、その申し出を受けた。こうして、シャルロット=ランブールは、その教師の下で才能を伸ばし、やがて天才ヴァイオリニストとしてステージに立つほどに成長した。しかし、かの女は、教師のオーギュスト=デュランが、コンセルヴァトワールで専門教育を受けるべきだと勧めたのを拒否し、彼のもとを去らなかった。かの女は、地元の普通の高校であるサン=ジェルマン校に入学したのである。そこで、かの女は、学校始まって以来最高のコンサート=ミストレスとして長く記憶される存在となったのであった。かの女の在学中、オーケストラは毎年のように学生オーケストラのコンクールで最優秀賞を総なめにし、サン=ジェルマン校オーケストラの名声はフランス中に響いた。それでも、両親始めまわりの人たちは、かの女がいずれコンセルヴァトワールに入学し、やがて有名なヴァイオリニストになることを期待し続けた。しかし、かの女は、サン=ジェルマン校を卒業すると、すぐに修道院に入ってしまったのである。かの女に何が起こったのか、誰にもわからなかった。かの女は、シャルロット=ランブールという名前も、過去の栄光も捨てた。かの女は、サン=ジェルマン=アン=レーから離れることはできなかったが、今ではごくわずかな人間を除いては、シャルロット=ランブールとスール=コラリィを結びつける人はいなくなった。かの女は、ごく普通の一人の修道女だった。そして、かの女はそれにすっかり満足していた。それでも、サン=ジェルマン校の教師たちの何人かは、シャルロット=ランブール(スール=コラリィ)のことを覚えていた。校長は、今回の話を聞いたとき、ぜひシャルロット=ランブールの助けになりたいと思ったのである。
 スール=コラリィは、シャルロットを何日かサン=ジェルマン校に連れて行き、オーケストラを聴かせた。しかし、かの女に変化は見られなかったのであった。
 スール=コラリィが効果を諦めかけたある朝のことだった。
 スール=コラリィは、その日も、テーブルの上にシャルロットのヴァイオリンをのせておいた。シャルロットは、何かの偶然からそのヴァイオリンに手が触れた。かの女はヴァイオリンをなでた。スール=コラリィが部屋に入ってきたとき、シャルロットはヴァイオリンをなで回していた。その手が弦に触れた。音がすると、かの女はもう一度同じ動作をした。はじくと音が出ることがわかると、かの女は弦をはじいた。シャルロットはそうやって、しばらく弦をはじいていた。その表情は、いつものようにぼんやりとしたものではあったが、とにかくかの女は初めてまわりの何かに興味を示したのである。かの女は飽きずに弦をはじき続けた。何かを繰り返し繰り返し続けることによって、外と何らかのつながりを持とうとしているかのように、かの女は反復行動を続けた。
 スール=コラリィは、思わずついたての陰に隠れ、かの女の状態を見守った。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ