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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第26章

第472回

 ミエチスワフ=レショフスキーとバルバラ=ヴィエニャフスカがブリューノ=マルローに連れられてサン=バルナベ病院にやってきたのは、ちょうどその頃だった。
 イアサント=クチュリエは3人を歓迎した。彼は友人のマルローと話をしたあとで、バルバラに言った。
「お嬢さん、あなたは、確か<ラ=ヴィクトワール号>でバーシャと呼ばれていた方ですね?」
「ええ、そうでした」
「あの子は、本当にシャルロット=コリエなの?」
「・・・あなたも、シャルロット=コリエがかの女の本名ではないことを知っていたんでしょう?」バルバラは反対に訊ねた。
「ええ」クチュリエは認めた。「本人がそう言いましたから。ただ、本名は聞きませんでしたけど」
「かの女は、シャルロット何とかというポーランドの大貴族のお嬢さんです」マルローが言った。
「チャルトルィスカです」バルバラが口をはさんだ。
「そう、チャル何とか・・・。どうも、ポーランドの名前って難しくてね」マルローは苦笑した。「この二人が、かの女と同じ船でフランスへ来たというので、連れてきたんです。もしかすると、かの女は二人を見て、何か思い出すんじゃないかと思ってね」
「かの女は、わたしを覚えていなかった・・・」クチュリエが言った。「ただ、このお嬢さんは、ずっとかの女と一緒だった。もしかすると、友人の顔なら思い出せるかも知れない・・・あまり期待はできないけど・・・」
 そう言うと、彼は手元にあったベルを鳴らした。
 スール=コラリィがやってきた。クチュリエは、かの女に手短に事情を説明した。
「担当のスール=コラリィと申します」かの女は、穏やかな澄んだ声で言った。「かの女に会う前に、二つだけ約束して下さい。一つは、かの女は全く言葉を解しませんので、できるだけ穏やかに話して下さい。もう一つは、かの女の手の届く範囲まで近づくことは避けて下さい。お願いします」
「約束します」彼らがそろって言った。
「・・・とてもひどいのですか、マ=スール?」バルバラが訊ねた。
「ええ・・・。でも、希望が全くもてないと言うわけでもありません」
 シャルロットは、4人が部屋に入っていっても、スール=コラリィだけを見ていた。その顔は、いつものように青白かった。3人は、以前知っていた女の子の面影がまるでないことに気がついた。
「ブローニャ、バーシャ=ヴィエニャフスカよ。覚えている?」バルバラがポーランド語で声をかけた。「わたしを見て。思い出して。わたしたち、友達だったわよね、そうじゃない?」
「ねえ、ブローニャ、きみは、本当に何も覚えていないの? クリーシャのことも、クラコヴィアクの仲間たちのことも、両親や・・・フェリックス=ザモイスキーのことも、みんな忘れてしまったの? ぼくの名前を言ってごらん」ミエチスワフも声をかけた。
 スール=コラリィは二人に言った。「あなた方の国の言葉に、スクシ何とか・・・というような言葉があるかしら? そんな感じの言葉なんだけど、聞き取りにくいのよ・・・」
 二人は顔を見合わせた。
「もしかすると・・・ヴァイオリンのこと?」バルバラが首をかしげながらミエチスワフにポーランド語で言った。
 スール=コラリィの顔が輝いた。「ええ、その言葉よ。どんな意味?」
「ヴァイオリンです」バルバラがフランス語で言った。
 スール=コラリィは思わずほほえみを浮かべた。
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