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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第3章

第46回

 クラリスに散歩の許可が下りたとき、リディアはパートナーにエマニュエルを選んだ。リディアは、彼がクラリスに恋心を抱き始めていることに気づいていた。かの女は、かの女なりに、クラリスにはクラウス=レヴィンよりエマニュエルの方がふさわしい、と思っていたのである。リディアは、クラリスの腕を取って一緒に歩いた。エマニュエルは、いわば二人のガードマンであった。
 ある日、三人の足がレマン湖に向いた。
「クラウス、来ているかしらね?」クラリスが言った。
「彼は、いつでもつりをしているわ」リディアが答えた。
「彼は、つりをしているんじゃありませんよ」エマニュエルが言った。
 二人の女性は、びっくりしたようにエマニュエルを見つめた。クラリスは、クラウスがつりをしているのではなく、作曲のアイディアを練っていることを知っていた。しかし、どうしてエマニュエルにそんなことがわかるのだろう、と思った。リディアは、クラウスが純粋につりを楽しんでいると思っていたので驚いたのである。二人は、まったく違う理由で驚いたのであるが、エマニュエルは二人が驚いたので、ちょっと気をよくして続けた。
「わたしには、わかるんです。彼は、あそこで、ある女性を待っているんですよ」
 クラリスは、さっと青ざめた。
「その女性はね、彼がつりをしていると、毎日のように現われるんです。彼は、かの女に会うために、あそこにいるんですよ」
 リディアは、クラリスの様子が変わったことに気づいた。「どうしたの、クラリス?」
 エマニュエルも青ざめた。「大丈夫ですか、クラリス?」
 かの女が倒れそうになっていたので、彼はあわてて抱きとめた。
 そのとき、彼らの背後で、スケッチブックがばさばさっと大きな音を立てて落ちた。
 クラウス=レヴィンが、真っ赤になって立っていた。彼は、何かを言おうとしたが、言葉にならなかった。握りしめた拳をさっとひっこめ、彼はかけ去っていった。
 エマニュエルは、一瞬緊張した表情をしたが、緊張を解いた。
「・・・さあ、戻らなくては。クラリスには、ちょっと無理だったみたいだね、このコースは・・・」エマニュエルが言った。彼は、かの女を軽々と抱き上げ、寮の方に向かって歩き出した。
 彼は、確信した。クラウス=レヴィンもまた、クラリスを愛していることを。
 そののち、彼らは何度かレマン湖に散歩に出かけたが、クラウスの姿を見かけることは、決してなかったのである。
 クラリスは、一人で歩けるようになった後も、何度かレマン湖に足を運んだ。かの女は、自分がどんなにクラウスを愛していたかを悟った。しかし、彼には恋人がいて、しかも、もう二度とここへやってくることはない・・・。
 かの女も、もうここへは来るまい、と誓った。失恋を引きずるのはやめよう。
 その晩、かの女は夢を見た。
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