FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第26章

第475回

 次の日から、スール=コラリィは、シャルロットの頭にヴァイオリンの音を詰め込み始めた。スール=コラリィは、いやがるシャルロットの手からヴァイオリンを取り上げ、無理矢理調弦し、かの女にそっと手渡した。スール=コラリィは、自分がかの女からヴァイオリンを奪ったわけではないし、取り上げたのは意地悪からではないのだということを全身で表現した。シャルロットは戻ってきたヴァイオリンを抱きしめた。もう二度と渡さないわ、と挑戦されているようにも見え、スール=コラリィはとにかくほほえんでみせた。
 しかし、シャルロットはヴァイオリンを握りしめるだけで、弾こうとはしなかった。
 スール=コラリィは、かの女を車椅子に乗せて外に出た。そして、いつものように中庭に出ると、サン=ジェルマン校から借りてきたヴァイオリンで<グレトリー>を弾いた。シャルロットは相変わらずぼうっとしていた。
 スール=コラリィは、自分のしていることがまるっきり無駄なことではないのだという自信があった。そのうちにシャルロットはきっと目覚めてくれるだろう、と信じていた。かの女の顔にはほほえみが戻っていた。まわりの人たち---修道院の人たちや、病院関係の人たち---にも、かの女の仕事がうまくいきつつあることがわかった。
 スール=コラリィが一番頼った同僚は、スール=サント=ジュヌヴィエーヴだった。今回、シャルロットの面倒を見るようにと最初にいわれたのがかの女だった。そのとき、かの女はその任務を断わった。それ以来、かの女は、後ろめたさと、この外国人の少女に対する同情から、スール=コラリィを優しく見守っていた。表面では、かの女はシャルロットに興味を持っているという素振りさえ見せなかったが、スール=コラリィは、かの女がシャルロットをいつも見守っているということがわかっていた。二人は、一緒にシャルロットの話をし、一緒にシャルロットのために祈った。そして、かの女はスール=コラリィを全面的にバックアップしようとしていた。スール=コラリィは、修道院に入って以来ずっとかの女を頼ってきたが、今回ほどかの女の助けがありがたいと思ったことはなかった。
 ある日、スール=コラリィは、仲間たちと一緒に洗った包帯を巻いていた。そのとき、スール=コラリィは、なにげなくスール=サント=ジュヌヴィエーヴの隣になるように座った。修道女たちは、仕事中の私語を禁止されていた。しかし、仕事の話をすることは許されていた。そこで、スール=コラリィは、なるべく同僚たちに聞こえないように声を潜めて、スール=サント=ジュヌヴィエーヴに声をかけた。
「近いうちに、あのちいさな患者に言葉を教えたいと思うのですが、なにかいい方法をご存じありませんか?」
 かの女たちの会話には、特定の人物名を使うことは禁止されていた。しかし、スール=サント=ジュヌヴィエーヴは、これだけで誰の話をしているのかわかった。かの女は、即座に答えた。
「わたしなら、カードを使います」
「カード?」
「AからZまでのカードを5枚くらい用意しておいて、カード遊びをさせるようにして単語を並べさせるのです。わたしは、娘とよくその遊びをしたものです・・・」
「お嬢さんがいらっしゃったのですか?」スール=コラリィと反対側に座っていたアルマンディーヌという見習い修道女が口をはさんだ。
 その質問は、明らかに「私語」である。その場にいた一番上位の修道女は、アルマンディーヌをにらみつけた。かの女は思わず下を向いた。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ