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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第482回

「かの女は、シャルロット=コリエじゃなかったのですか?」
 シャルニーは驚いていた。「初めから話す必要がありそうだね。かの女の名前は、シャルロット=チャルトルィスカ。ポーランドの大貴族で、有名な政治家だったアントーニ=チャルトルィスキー公爵の一人娘だった」
「だった、ということは、彼は死んだの?」
「ああ。公爵は、馬車で田舎の別荘に行く途中、暗殺された。乗っていた馬車を、ダイナマイトで吹き飛ばされたそうだ。そのとき、シャルロットも同じ馬車に乗り合わせていてね・・・。かの女は、その事件のときに、あの両足を怪我した。しかし、あの足を治せる人がいなかった。かの女のポーランドの主治医は、友人のブリューノ=マルローを推薦した。つまり、かの女は、あの足を治すため、フランスに来たんだよ」
 スール=コラリィは真っ青になっていた。
「かの女は、フランス行きの船の中で、偶然にドクトゥール=クチュリエに会った。かの女は、自分の名前をシャルロット=コリエと偽った。ドクトゥールも、かの女の本当の名前がシャルロット=コリエではないことを知っていたが、あえて本当の名前を聞かなかったそうだ」
 その話は、スール=コラリィも知っていた。だから、かの女をシャルロット=コリエと呼んでいたのだ。
「かの女の母親は、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーのいとこだった。そして、かの女の主治医は、昔、フランスに留学していて、ブリューノ=マルローと大学の同級生だった。マルローは、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリー亡き後、ミュラーユリュードの研究所の代表だ。彼は、ドクトゥールのいとこの娘に当たるかの女を、研究所に引き取るべきだと考えている。そして、もう一人・・・アファナーシイ=ザレスキー氏が、そうすべきだと考えている」
 スール=コラリィは驚いた。「アファナーシイ=ザレスキー氏といえば、ザレスキー一族の・・・?」
「そう、当主の代理をしている人だよね。あなたは知らないかも知れないが、あの子も、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーも、ザレスキー一族なんだ」
 スール=コラリィは、初めてシャルロットの背後の人間関係を知った。かの女自身、一度は音楽の世界にいたことがある人間だったから、ザレスキー・フランショームという大きな組織的一族のことは聞いたことがある。かの女は、相手が悪すぎると思った。シャルロットは、行ってしまう。
「・・・でも、残念だよね。あの子は、ずっとここにいて、サン=ジェルマン校に来てくれれば、次か、悪くてもその次のコンサート=ミストレスになれたのに。そうすれば、シャルロット=ランブール以来の黄金時代の到来は間違いなかったのに・・・」彼は、目の前にいる修道女が、まさかそのシャルロット=ランブールだとは夢にも思っていなかった。「わたしは、シャルロット=ランブールが卒業してからここに来た。ここのところのオーケストラの不調は、わたしのせいみたいにみんな言うが、わたしに言わせれば、シャルロット=ランブールのようなスーパースターがいたら、どんな指揮者だってうまくいくんじゃないのかな?」
「あなたはよくやっていますわ、ムッシュー=シャルニー。あなただって立派だわ。シャルロット=ランブールがいなくても、オーケストラはちゃんと全国に通用するレヴェルを保っているわ」スール=コラリィは、どこまで真面目かわからないような口調で言った。
「どうもありがとう」シャルニーも皮肉めいた応答をした。「しかし、われわれは大きなものを失うかわり、ミュラーユリュードは宝物を手に入れるわけだ。あの子を、サント=ヴェロニック校が黙ってみているはずはない」
 そう言うと、彼はにやりとした。「いや、そううまくはいかないな。かの女は、ミュラーユリュードで静養した後、足の手術にマルセイユに向かうだろう。そして、足が治れば、予定通りグルノーブルに行くに違いない」
「グルノーブル?」スール=コラリィが首をかしげた。
「そうさ。もともと、かの女をフランスに来させたのは、ジョゼフ=サヴェルネなんだから」
「あのサヴェルネ教授が?」スール=コラリィはますます青くなった。
「報道が正しければね。彼は、かの女に言ったそうだよ。《車椅子に乗っていてもヴァイオリンは弾ける。だから、フランスへいらっしゃい、今すぐ》とね。でも、かの女は先に足を治したいと答えたそうだ」
 スール=コラリィはあぜんとした。滅多なことで新しい弟子を増やさないことで有名なあのサヴェルネ教授にそんなことを言える人間は、この世にはほとんど存在しない。そして、そこまで言い切った少女を、彼は弟子にしようとしている。ポーランドにそんなにすごいヴァイオリニストがいたとは、知らなかった・・・。かの女は、いったい何者なのだ?
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