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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第484回

 その日から、スール=コラリィの戦いは始まった。
 自分を頼り、信じ切っているシャルロットを、少しずつ突き放していかなければならない。そう、突き放すのも愛情なのだ。シャルロットは、これからは、一人で---かの女なしで---生きていかなければならないのだ。
 シャルロットにも、スール=コラリィの態度の変化が感じられた。しかし、かの女には、スール=コラリィの急変の理由が飲み込めなかった。かの女は、一人で黙って苦しんでいた。いったい、自分は、スール=コラリィに何をしてしまったのだろう? どうして、スール=コラリィは、あんなに悲しそうに自分を見つめるのだろう? かの女には、どう考えても答えが出せなかった。
 数日後、ミュラーユリュードのブリューノ=マルローから便りが届いた。シャルロットの経過が順調なら、そろそろミュラーユリュードに帰す時期が来ているのではないか、という内容だった。
 イアサント=クチュリエは、手紙を読み終えると、手元のベルを鳴らした。
 スール=コラリィが現われると、彼は持っていた手紙をかの女に手渡した。そして、手紙を読み終えて顔を上げたかの女に尋ねた。
「あなたの目から見て、シャルロットの状態はどうかね?・・・つまり、旅行に耐えられるだけの体力があるかどうか、ということだがね・・・」
「大丈夫だと思います、ドクトゥール」スール=コラリィは事務的に答えた。そして、かの女はクチュリエ医師に手紙を返した。
「ありがとう、スール=コラリィ。あなたには、とても言葉では表せないくらい、感謝しているよ」クチュリエ医師は、普段の彼には珍しいくらい優しい口調で言った。「あなたには、もう一つ仕事を頼みたいのだが、かまわないだろうか?」
 スール=コラリィはうなずきかけたが、彼の顔を見ているうちに、その顔色がくもった。かの女は、彼が頼もうとしている仕事の内容を察した。
 彼の方も、それに気がついた。彼は、言いにくそうに続けた。
「・・・シャルロットをまかせられるのは、あなたしかいない。すまないが、かの女をミュラーユリュードまで連れて行ってもらえないだろうか?」
「行ってきます、ドクトゥール」スール=コラリィは、無理に元気よく答えた。「わたしが、シャルロット=コリエ---いいえ、シャルロット=チャルトルィスカにしてあげられることは、もう、それしかないのですから・・・」
 彼は首を横に振った。「そんなことはないよ。でも、これは、間違いなく最後の仕事になる」
 スール=コラリィはうなずいた。
「医者は、患者と別れるとき、もう一度その患者に会いたいと思うものだよ。ただし、病院以外のところで、その人が元気でやっているときにね・・・」イアサント=クチュリエは、しみじみとした口調で言った。「・・・わたしは、勝手な人間だと思うかね?」
「いいえ、ドクトゥール。わたしも同感です」スール=コラリィは、思わず涙ぐんだ。
 クチュリエ医師は、かの女の肩をぽんと叩いた。
「じゃ、頼んだよ、スール=コラリィ。帰ってきたら、別の患者があなたを待っていることだろう」ドクトゥール=クチュリエが真面目な口調で言った。
 彼の目も潤んでいた。
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