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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第486回

 スール=コラリィは、シャルロットを連れてミュラーユリュードにやってきたが、二人は<ソサイエティ>の練習風景を見るため、まっすぐサント=ヴェロニック校に向かった。もちろん、見たいと思っているのは、本当はスール=コラリィ自身だった。しかし、かの女は、病気のシャルロットのためにオーケストラを聴かせてあげたいと無理にいいわけを考え、学校に行ったのである。
 もともと教会の聖歌隊から始まった歴史を持つこの学校では、修道女姿のスール=コラリィが門の前に立っただけで門番の応対が違った。門番は、二人を待たせることなく門を開け、自ら校長室に案内しようとした。
 スール=コラリィは、校長室が建物の2階だと聞き、シャルロットを待たせることにした。スール=コラリィは、途中まで車椅子を押したが、中庭まで来るとこう言った。
「シャル、ここでじっとしていなさいね。わたしは、これからオーケストラ見学の許可をもらってきますからね」
 シャルロットはうなずき、スール=コラリィが案内役の修道女に連れられて校長室に向かうのを見送った。
 やがて、スール=コラリィの姿が見えなくなると、シャルロットは車椅子を押して、銅像のところまでいった。中庭には、どうやら、ほかに面白そうなものはなさそうだった。
 像の前にはベンチがあった。そのベンチに赤毛の少年が座り、夢中で本を読んでいた。
「こんにちは」シャルロットは少年に声をかけた。
 赤毛の少年は顔を上げた。彼は、シャルロットを優しく見つめた。とても美しい青い目をした少年だった。
「こんにちは。あなたは、ここの生徒じゃないようですね?」
「ええ、オーケストラを見に来たの。・・・ところで、この像は、誰の像なの?」
「以前ここで先生をしていたドクトゥールと、そのお嬢さんの像ですよ」彼は赤毛を無意識に後ろになでた。「彼らは、とても悲劇的な死を遂げたそうですよ」
 シャルロットは、男の人とちいさな女の子の像を見上げた。そのとき、かの女は、前にスール=コラリィがいった言葉を思い出した。
『死ぬというのは、眠りなの。でも、決して目覚めない眠りなのよ』
「・・・1907年7月のことでした」少年は続けて話していた。「ドクトゥールは、お嬢さんを連れて旅行に行きました。ところが、車が途中で壊れてしまったんです。運転手は、車のブレーキがきかないことに気づいたのです。車は、崖から真っ逆さまに落ちてしまったんですよ。そして、3人とも助からなかったそうです」
 シャルロットは、顔を両手で覆った。目の前に黒い車が浮かんできた。黒い車、黒いハンドル、黒いシート、黒い髪、黒いくつ・・・。シャルロットは目を開いた。少年の心配そうな青い瞳がうつった。そして、青い空が見えた。かの女はまた目を閉じた。目の奥に青い空が映った。そして、青い海が・・・。そして、海を思わせる誰かの青い目が浮かんで消えた。・・・その誰かのシルエットが浮かんだ。彼は、ブロンドの髪をしていた。そして、白い服を着ていた。それは、服というより、ドクトゥール=クチュリエが着ていたような白衣だった。ぼんやりと顔が見えたが、それは、今見たばかりの銅像のドクトゥールと同じ顔をしていた。よく見ると、隣に黒い髪の痩せた男がいた。かの女は不安になって目を開けた。
 さっきの少年が、心配そうにかの女を見ていた。
 シャルロットは真っ青になっていた。
「ドクトゥールを呼んでくるよ!」少年は驚いて立ち去った。
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