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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第487回

『車は、崖から真っ逆さまに落ちてしまったんです・・・』
 シャルロットは目を閉じた。額に汗をびっしょりかいていた。
『・・・お聞き、シュリー。わたしたちは、殺されようとしている。ごらん、ブレーキがきかなくなっているってルネが言っているだろう? わたしたちは死ぬんだよ』誰かがそう言った。ひどく懐かしい声だった。
『ハンドルもききません!』隣で悲劇的な声がした。
 シャルロットは夢中になって誰かにしがみついた。その誰かは、かの女をしっかりと抱きしめた。かの女は力強い腕を感じた。彼は、口の中で何かをつぶやいた。かの女は顔を上げ、彼のブルーの目をのぞき込んだ。その目は優しかった。
『・・・おまえだけは助かって欲しい・・・。シュリー、わたしは、たとえ自分の命に替えても、おまえだけは守ってやる。守ってやるとも・・・』かの女には、彼がそう言ったように聞こえた。
 体に何か強い衝撃が走った。・・・そして、冷たい水がすべてを覆った。誰かが自分から離れていくのがわかった。目が開けられなかった。体の力が抜け、自分の体が波にもまれるような感覚がした・・・そして、目の前が真っ暗になった・・・。
 シャルロットは目を開けた。ぼんやりと銅像が見えた。かの女は泣いていたのだった。
「・・・ペール=トニィ・・・」かの女の口から知らず知らずのうちに言葉が漏れた。「・・・かわいそうなわたしのパパ・・・」
 かの女は、自分がユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリーだということを、突然思い出した。
『そして、3人とも助からなかったそうです・・・』シャルロットは、さっきの少年の言葉を思い出した。助かったのは、自分だけだった。父親も、運転手のフェリーさんも助からなかった・・・。
 かの女は、思い切り泣いた。泣くしかなかった。
「この子かい、ファンシュ=ル=ソン?」白衣を着た若い男が言った。校医のリュシアン=ワッセルマンだった。彼は、さっきの少年に連れられてやってきた。彼の目は、驚きで見開かれた。「・・・やっ、この子は、あの噂のブローニャ=チャルトルィスカじゃないか!」
「この子が、シャルロット=チャルトルィスカなんですか?」少年は、明らかに好奇心が混じったまなざしでシャルロットを見つめた。
 ドクトゥール=ワッセルマンは、激しく泣いているシャルロットのそばにより、優しく声をかけた。「泣かないで。落ち着いて考えてごらん。何が起こったの? 彼がいじめたの?」
 少年は、びっくりしたようにドクトゥール=ワッセルマンを見つめた。
 そこへ、スール=コラリィが戻ってきた。二人は、かの女を見ると、尊敬の混じったまなざしになり、一歩下がった。
「・・・どうしたんです?」スール=コラリィは、思わず二人をにらみつけた。
「わたしたちにも、よくわからないんです」ドクトゥール=ワッセルマンが答えた。
「泣きやむように言っても無駄でしょう・・・。この子にはわからないでしょうから・・・」
 シャルロットにはわかっていた。しかし、わからないふりを続ければ、泣いている理由を聞かれずにすむと思ったので、そのまま泣き続けることにした。とにかく、悲しみの涙は、ここで全部流してしまいたかった。そして、シャルロット=ド=ルージュヴィルは、新しい道を歩まなければならないのだ。
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