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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第488回

 そのとき、出し抜けにオーケストラの音が聞こえた。ただし、今までとは違う方角からだった。
「・・・あれが、<スゴン>---つまり、<ソサイエティ>の補欠オーケストラです」ドクトゥール=ワッセルマンは、スール=コラリィに説明した。
 シャルロットは、聞こえてくるメロディーに聞き覚えがあることに気づいた。以前、ミュー(オーギュスティーヌ=ド=マルティーヌ)がかの女の誕生祝いに作ってくれた曲に似ていた。
「あの曲は?」スール=コラリィが訊ねた。
「作曲コースの生徒が作ったものです」ドクトゥール=ワッセルマンが言った。「スゴンというオーケストラの主な仕事は、作曲コースの生徒の作品を発表することです」
 スール=コラリィは、感心したようにうなずいた。
 逆に、シャルロットはその返事を不審に思った。この白衣の男性が言った<作曲コースの生徒>という言葉が男性名詞だったからである。あの曲を作ったのは、ミューのはず。どうして、男子生徒の作品だというのだろうか? 
 そのとき、シャルロットは、白衣を着た青年の隣に立っていた赤毛の少年がミューに・・・いや、いとこのコルネリウスに似ていることに気づいた。この少年は、フランショーム一族に違いない。しかし、かの女は、今はそのことを考えないようにしようと思った。
「ソサイエティの練習を見学する許可がおりました。行きましょう、シャル」スール=コラリィが言った。「車椅子は、自分で押しなさいね」
 シャルロットは涙を拭いた。そして、ゆっくりと車椅子を押した。
 ドクトゥール=ワッセルマンと赤毛の少年はその場に残った。
 かの女たちがホールに入ると、いきなり女の子が叫んだ。
「ブローニャ!」バルバラ=ヴィエニャフスカだった。
 その声で、みな一斉に車椅子のシャルロットの方を見た。シャルロットには、当然、バルバラがわからなかった。シャルロットはバルバラにはかまわずに、さらに車椅子を進めた。
 シャルロットは、コンサートマスターに近づこうとした。しかし、その席に座っていた少年に気づくと、さっと顔色が変わった。
---ドンニィ・・・まさか・・・。
 シャルロットは、ぎくっとして少年を見つめた。
 コルネリウスの方も真っ青になっていた。まるで幽霊を見ているように青ざめていた。
---なんてことだ、写真よりずっとシュリーに似ているじゃないか! これじゃ、うり二つ、なんてもんじゃない!
 シャルロットは、気を取り直して言った。「こんにちは、みなさん」
「こんにちは」団員は口々に挨拶した。
 そこには、指揮者がまだ来ていなかった。ぼうぜんとしているコンサートマスターにかわり、一人の少年が進み出た。彼は、二人の客に説明を始めた。
 しかし、シャルロットは全く聞いていなかった。かの女は、コルネリウスがだんだん青い顔になっていくのを、恐ろしそうに見つめていたのだった。
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