コルネリウスは、シャルロットの『こんにちは、みなさん』という一言が気になっていた。彼は、死んだいとこの声をよく覚えていた。話し方の特徴も・・・。この少女は、彼のいとこそっくりな話し方をした。かの女の《こんにちは》というときの<n>の発音は、かの女独特のものだった。シャルロットの挨拶だけで、彼は死んだいとこのことを思い出してしまったのである。
『ねえ、ドンニィ、あなたは、どんなときにも泣かないの?』
『そんなことないと思うよ』
『でも、あなたは、アルトゥールおじさまが亡くなったときにも泣かなかったわ』
『・・・せいいっぱい、我慢したからね』
『どうして泣かなかったの? 我慢する必要なんかなかったのに?』
『・・・わからない』
『やっぱり、あなたは、何があっても泣かないんだわ』
『どうしてぼくが泣かないのか教えてあげるよ、ロッティ。パパは、ぼくに強くなれと口癖のように言っていた。強い子は決して泣かない。泣くのは、自分の負けを認めることなんだ、ってね。ぼくはね、泣きたくなっても、いつも、泣くまいとして我慢するんだ。そして、いつも、自分は強いんだって思いこもうとしている。でも、ぼくは・・・ほかのことは我慢できても、きみがいないことを我慢できるかどうかだけはわからないんだ』
『わたしが死んだときのことを想像しても、わからない?』
『きみが死んだときだって?・・・きみが死ぬなんてこと、ぼくに考えられると思っているの?』
コルネリウスは、崖から車が落ちたと聞いた日のことを思い出していた。1907年7月14日・・・。一日中暑い日だった。彼はピアノを弾いていたが、何となく胸騒ぎがして部屋から飛び出した。急に風が吹いてきて、<貴婦人>という愛称の白いバラの花びらが風に飛ばされ、庭に舞い上がっていた。・・・そして、<おしゃべりな掲示板>のフィリップ=シェドゥヴィーユが車でやってきた。
『驚いちゃだめだよ、ぼうや・・・。ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーが、ル=アーヴルで事故にあったんだ。車ごと崖から落ちて、乗っていた人はみな助からなかったそうだ・・・』
コルネリウスは、あの日のように目の前が真っ暗になった。そして、前のめりになって椅子から落ちた。気を失ってしまったのだ。
シャルロットは、とっさに立ちあがり、コルネリウスのところに駆け寄った。
「シャルロット!」スール=コラリィは驚いて叫んだ。
シャルロットはコルネリウスを抱き起こした。彼は、シャルロットの腕の中で意識を取り戻した。
「・・・生きていたんだね、ロッティ?・・・ぼくは、きみが生きているって、ずっと信じていたよ」コルネリウスがつぶやいた。そして、彼は、自分を抱いていた少女を見つめ、夢から覚めたような表情をした。彼は、青ざめた顔にほほえみを浮かべ、ささやいた。「・・・ありがとう、モン=プティタンジュ」
シャルロットは、心の底からうれしそうにほほえんだ。かの女のほほえみは、ちいさかった頃の彼のいとこのほほえみを思い出させた。コルネリウスは悲しそうな表情になり、思わず顔を背けた。
「・・・きみは、ぼくのロッティに、どうしてそんなに似ているの?」彼がつぶやいた。
シャルロットはそれを聞くと、やはり悲しそうな表情を浮かべ、彼を抱いていた手をはなした。
スール=コラリィは二人のそばに行った。「よかったわね、歩けるようになって。さあ、もう一度立ってご覧なさい、シャル」
シャルロットは立ちあがろうとした。しかし、もう足は自由にならなかった。かの女は、それでも立とうとがんばった。たまりかねてトランペット奏者が出てきてかの女を抱き上げ、車椅子に戻した。
「ごめんね。見ていられなかったんだ」彼は弁解するように言った。しかし、優しい口調だった。
「ありがとう、わたし、うれしいわ」シャルロットが彼にほほえみかけた。
「・・・邪魔をしてごめんなさい、みなさん。今日は、帰った方がいいようです」スール=コラリィが断言するように言った。「どうか、練習を続けて下さいね」
『ねえ、ドンニィ、あなたは、どんなときにも泣かないの?』
『そんなことないと思うよ』
『でも、あなたは、アルトゥールおじさまが亡くなったときにも泣かなかったわ』
『・・・せいいっぱい、我慢したからね』
『どうして泣かなかったの? 我慢する必要なんかなかったのに?』
『・・・わからない』
『やっぱり、あなたは、何があっても泣かないんだわ』
『どうしてぼくが泣かないのか教えてあげるよ、ロッティ。パパは、ぼくに強くなれと口癖のように言っていた。強い子は決して泣かない。泣くのは、自分の負けを認めることなんだ、ってね。ぼくはね、泣きたくなっても、いつも、泣くまいとして我慢するんだ。そして、いつも、自分は強いんだって思いこもうとしている。でも、ぼくは・・・ほかのことは我慢できても、きみがいないことを我慢できるかどうかだけはわからないんだ』
『わたしが死んだときのことを想像しても、わからない?』
『きみが死んだときだって?・・・きみが死ぬなんてこと、ぼくに考えられると思っているの?』
コルネリウスは、崖から車が落ちたと聞いた日のことを思い出していた。1907年7月14日・・・。一日中暑い日だった。彼はピアノを弾いていたが、何となく胸騒ぎがして部屋から飛び出した。急に風が吹いてきて、<貴婦人>という愛称の白いバラの花びらが風に飛ばされ、庭に舞い上がっていた。・・・そして、<おしゃべりな掲示板>のフィリップ=シェドゥヴィーユが車でやってきた。
『驚いちゃだめだよ、ぼうや・・・。ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーが、ル=アーヴルで事故にあったんだ。車ごと崖から落ちて、乗っていた人はみな助からなかったそうだ・・・』
コルネリウスは、あの日のように目の前が真っ暗になった。そして、前のめりになって椅子から落ちた。気を失ってしまったのだ。
シャルロットは、とっさに立ちあがり、コルネリウスのところに駆け寄った。
「シャルロット!」スール=コラリィは驚いて叫んだ。
シャルロットはコルネリウスを抱き起こした。彼は、シャルロットの腕の中で意識を取り戻した。
「・・・生きていたんだね、ロッティ?・・・ぼくは、きみが生きているって、ずっと信じていたよ」コルネリウスがつぶやいた。そして、彼は、自分を抱いていた少女を見つめ、夢から覚めたような表情をした。彼は、青ざめた顔にほほえみを浮かべ、ささやいた。「・・・ありがとう、モン=プティタンジュ」
シャルロットは、心の底からうれしそうにほほえんだ。かの女のほほえみは、ちいさかった頃の彼のいとこのほほえみを思い出させた。コルネリウスは悲しそうな表情になり、思わず顔を背けた。
「・・・きみは、ぼくのロッティに、どうしてそんなに似ているの?」彼がつぶやいた。
シャルロットはそれを聞くと、やはり悲しそうな表情を浮かべ、彼を抱いていた手をはなした。
スール=コラリィは二人のそばに行った。「よかったわね、歩けるようになって。さあ、もう一度立ってご覧なさい、シャル」
シャルロットは立ちあがろうとした。しかし、もう足は自由にならなかった。かの女は、それでも立とうとがんばった。たまりかねてトランペット奏者が出てきてかの女を抱き上げ、車椅子に戻した。
「ごめんね。見ていられなかったんだ」彼は弁解するように言った。しかし、優しい口調だった。
「ありがとう、わたし、うれしいわ」シャルロットが彼にほほえみかけた。
「・・・邪魔をしてごめんなさい、みなさん。今日は、帰った方がいいようです」スール=コラリィが断言するように言った。「どうか、練習を続けて下さいね」
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年代記 第二部

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