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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第491回

 スール=コラリィは心配そうに訊ねた。「まさか、シャルロットを実験に使うようなことはないでしょうね?」
「そんなことをするものですか!」ダルベールは、思わず人を安心させてしまうような調子で言った。「わたしは、いえ、わたしたちは、シャルロットお嬢さまを、亡くなったユーフラジーお嬢さまのように大切な方だと思っています」
「わたしも、アンブロワーズと同意見です」マルローも答えた。
 スール=コラリィは、この二人がシャルロットの新しい保護者になるのだと思うと、まず頼りなさを感じた。しかし、この二人なら、自分が手探りでやってきたことを引き継いでくれそうな気がした。さらに、この二人なら、それ以上のことができそうな気さえした。
「シャルを愛して下さいね」スール=コラリィは、二人に頭を下げた。
 ドクトゥール=ダルベールは大きくうなずいた。
 その日の晩、シャルロットは車椅子で、<所長室>と呼ばれる部屋に行った。部屋には、マルローとダルベールがいた。彼らは、何か相談しているようだった。
「何か、ご用ですか?」ダルベールは穏やかに訊ねた。
「ええ、お話があるのですが」
「わたしに?」ダルベールは、少しうれしそうな表情で訊ねた。
「いいえ、お二人に」シャルロットが答えた。
 二人は顔を見合わせた。
 シャルロットは、その間にドアを閉め、車椅子を前に押して、二人がいるテーブルのところまで行った。そして、二人をかわるがわる見つめた。
 かの女は、真面目な顔をしてこう話し出した。「信じてもらえないとは思いますが、わたしは、ユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリーです」
 二人は凍りついたようになった。
 やがて、マルローが笑い出した。「ユーフラジーお嬢さまは、死んだんだよ」
「いいえ、生きています。わたしがそうなんですから・・・」シャルロットは確信を持っていった。
 あっけにとられていたダルベールは、はっと正気に戻った。
「わたしたちは、初めてあなたに会ったとき、あなたがユーフラジーお嬢さまだと思いました」ダルベールは優しい口調で話し始めた。「わたしとディラン夫人だけは、最後まであなたがユーフラジーお嬢さまだと言いました。ですが、あなたは、それを否定なさいましたよね?」
「・・・ごめんなさい、その記憶はないんです」シャルロットの表情がくもった。「わたし、1907年7月14日以降のことは覚えていないんです・・・」
「あなたは、シャルロット=チャルトルィスカさまなのです」マルローが言った。「あなたは、ポーランドから来た公爵令嬢です。そして、事故で、記憶を一切失ってしまわれた・・・」
「・・・そうおっしゃられても・・・」シャルロットは口ごもった。「わたしは、ポーランド語は全然覚えていないし、ポーランドの記憶も全然ないわ。ただ、ヴァイオリンを思い出しただけ・・・。でも、たしか、ロッティは、ヴァイオリンを弾けなかったはずよね?」
「ええ、かの女は、全然・・・」ダルベールが答えた。
「わたしは、ここでは、ピアノを弾いていたわ。そばにドンニィがいてくれて・・・」シャルロットが言った。「でも、ロベールおじさまは、どうしても苦手だった・・・。彼は、いつでも、わたしにピアノを教えようとしていたわね。・・・そういえば、彼はどうしているの?」
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