二人は顔を見合わせた。
「・・・ロビン=カレヴィは、死んだんです」ダルベールが小さな声で言った。
シャルロットは真っ青になった。
「彼は、重い病気にかかっていました。でも、あの人には、治ろうという強い意志がなかった・・・。彼は、好きだったただ一人の女性に先立たれ、自分の希望を託した女の子にも先に逝かれ・・・この世には未練がなかったんですね」ダルベールは言葉を選びながら話した。「彼の気持ちは、二人がいる天国の方へ向いていたんですね、ずっと・・・。彼は、1908年---あの不幸な事故の翌年に亡くなりました。最期の言葉は、『クラリス、わたしは約束を果たせなかった。許してくれ』だったそうです」
シャルロットは思わず涙ぐんだ。「わたしのせいなのね・・・。彼は、わたしが死んだと思って・・・」
ダルベールは、かの女のところに行って、慰めるようにそっと肩に手を置いた。「もちろん、あなたのせいじゃありません」
二人の博士たちは、シャルロットが悲しんでいる姿を同情を込めて見つめていた。
やがて、シャルロットは涙を拭いた。
「あなたたちは、わたしがロッティだということを、どうしても信じて下さらないのね?」シャルロットは小さな声で言った。
「もし、あなたがシュリーさまだとして、どうして急にそんなことを思い出されたのですか?」マルローが訊ねた。
「サント=ヴェロニック校で・・・銅像を見たの・・・ペール=トニィの・・・」シャルロットはそう言うと、つらそうに目を伏せた。
二人の博士たちは、顔を見合わせた。
「あれは、ロベール=ディラン氏が作ったものです」ダルベールが説明した。「サント=ヴェロニック校の校長は、ドクトゥールが・・・亡くなった後で・・・学校にドクトゥールの銅像を造ろうと決めたんですよ。それを造るために選ばれたのは、マルセイユのロベール=ディラン氏でした。校長は、像を造る人物を公募で選んだのです。ディラン氏は、銅像の制作よりはむしろ建物の設計が本業でした。しかし、校長は、応募者の中で一番ドクトゥールを尊敬し、愛している人物・・・という基準で制作者を決定したのです」
そう言うと、ダルベールはほほえんだ。
「ディラン氏は、ドクトゥールとシュリーお嬢さまの写真を借りるためにこの研究所へやってきました。そして、彼は・・・マディさん---マドレーヌ=フェラン嬢にひとめぼれをしてしまったんです」
シャルロットは目を丸くした。
「そして、彼は、それから5年もの間、マディさんを口説き続けました」ダルベールの口調は柔らかくなった。「マディさんは、ドクトゥールの一番の腹心でした。かの女は、ドクトゥールが亡くなった後、その遺言にしたがって、この屋敷の管理者となりました。かの女は、彼に代わってこの屋敷を守っていく義務があると言って彼の求愛をはねつけていたのです。サント=ヴェロニック校の校長が、彼の恋を全面的に応援するため、彼にサント=ヴェロニック校の教職を提供したのです。彼は、とうとう、マルセイユの生活を捨て、ミュラーユリュードに住み着いてしまいました。サント=ヴェロニック校の教職には就きませんでしたけどね。そして、マディさんは、ついにその情熱に屈服しました・・・」
シャルロットは、その話を聞きながら、自分の心の中まであたたかくなるのを感じた。
「二人は、この6月に結婚したばかりでした。その結婚式から少しして、ポーランドから手紙が届きました。ドクトゥールのいとこにあたり、アレクサンドリーヌ夫人の友人であったナターリア=チャルトルィスカ公爵夫人のお嬢さんが、ポーランドでは治すことができないような大変な怪我をされた。どうか助けてやって欲しい・・・。そういう内容でした。マディさんは、その手紙を読むと、即座にそのお嬢さんを受け入れることを決めました」
「・・・ロビン=カレヴィは、死んだんです」ダルベールが小さな声で言った。
シャルロットは真っ青になった。
「彼は、重い病気にかかっていました。でも、あの人には、治ろうという強い意志がなかった・・・。彼は、好きだったただ一人の女性に先立たれ、自分の希望を託した女の子にも先に逝かれ・・・この世には未練がなかったんですね」ダルベールは言葉を選びながら話した。「彼の気持ちは、二人がいる天国の方へ向いていたんですね、ずっと・・・。彼は、1908年---あの不幸な事故の翌年に亡くなりました。最期の言葉は、『クラリス、わたしは約束を果たせなかった。許してくれ』だったそうです」
シャルロットは思わず涙ぐんだ。「わたしのせいなのね・・・。彼は、わたしが死んだと思って・・・」
ダルベールは、かの女のところに行って、慰めるようにそっと肩に手を置いた。「もちろん、あなたのせいじゃありません」
二人の博士たちは、シャルロットが悲しんでいる姿を同情を込めて見つめていた。
やがて、シャルロットは涙を拭いた。
「あなたたちは、わたしがロッティだということを、どうしても信じて下さらないのね?」シャルロットは小さな声で言った。
「もし、あなたがシュリーさまだとして、どうして急にそんなことを思い出されたのですか?」マルローが訊ねた。
「サント=ヴェロニック校で・・・銅像を見たの・・・ペール=トニィの・・・」シャルロットはそう言うと、つらそうに目を伏せた。
二人の博士たちは、顔を見合わせた。
「あれは、ロベール=ディラン氏が作ったものです」ダルベールが説明した。「サント=ヴェロニック校の校長は、ドクトゥールが・・・亡くなった後で・・・学校にドクトゥールの銅像を造ろうと決めたんですよ。それを造るために選ばれたのは、マルセイユのロベール=ディラン氏でした。校長は、像を造る人物を公募で選んだのです。ディラン氏は、銅像の制作よりはむしろ建物の設計が本業でした。しかし、校長は、応募者の中で一番ドクトゥールを尊敬し、愛している人物・・・という基準で制作者を決定したのです」
そう言うと、ダルベールはほほえんだ。
「ディラン氏は、ドクトゥールとシュリーお嬢さまの写真を借りるためにこの研究所へやってきました。そして、彼は・・・マディさん---マドレーヌ=フェラン嬢にひとめぼれをしてしまったんです」
シャルロットは目を丸くした。
「そして、彼は、それから5年もの間、マディさんを口説き続けました」ダルベールの口調は柔らかくなった。「マディさんは、ドクトゥールの一番の腹心でした。かの女は、ドクトゥールが亡くなった後、その遺言にしたがって、この屋敷の管理者となりました。かの女は、彼に代わってこの屋敷を守っていく義務があると言って彼の求愛をはねつけていたのです。サント=ヴェロニック校の校長が、彼の恋を全面的に応援するため、彼にサント=ヴェロニック校の教職を提供したのです。彼は、とうとう、マルセイユの生活を捨て、ミュラーユリュードに住み着いてしまいました。サント=ヴェロニック校の教職には就きませんでしたけどね。そして、マディさんは、ついにその情熱に屈服しました・・・」
シャルロットは、その話を聞きながら、自分の心の中まであたたかくなるのを感じた。
「二人は、この6月に結婚したばかりでした。その結婚式から少しして、ポーランドから手紙が届きました。ドクトゥールのいとこにあたり、アレクサンドリーヌ夫人の友人であったナターリア=チャルトルィスカ公爵夫人のお嬢さんが、ポーランドでは治すことができないような大変な怪我をされた。どうか助けてやって欲しい・・・。そういう内容でした。マディさんは、その手紙を読むと、即座にそのお嬢さんを受け入れることを決めました」
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