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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第3章

第47回

 それは、葬式の夢であった。花で飾られた祭壇の上に、クラウス=レヴィンの写真が飾られていた。
 クラリスは、黒い服を着てハンカチで顔を覆っていた。音楽が聞こえてくる。

Lux aeterna luceat eis,Domine.
cum sanctis tuis in aeternum,
quia pius es.


「お葬式・・・?」クラリスはつぶやいていた。「でも、なぜ、クラウスが・・・?」
 隣にメランベルジェが立っていた。
主よ、永遠の光明をかれらの上に輝かせたまえ、とこしてに、主の聖人らとともに、慈悲深き主よ」 彼は、一緒に歌っていた。
 クラリスは、黙って師を見つめた。
「クラリス、曲がきみを支配するんじゃなく、きみが曲を支配するんだ」
「メランベルジェ、どうして今そんなことを言うんです?」クラリスは昔と同じことを訊ねていた。
「時間を無駄にしてはいけないよ。考えないで作曲をすることは時間の無駄だ」メランベルジェはほほえんでいた。「きみが大きくなればわかるだろう。ただし、わたしはそれまで生きてはいないがね」
「あなたが死んでしまうなんて!」
「クラリス、この世には死というものがあるが、それは、体が滅びてしまうことだ。でも、体がなくなっても、魂は天国で生き続けるものなのだ。少なくても、生き残った人はそう思っていたいものなのだ」メランベルジェが言った。「知っているかい、クラリス、レクィエムというのは、希望の歌なんだよ」
「・・・?」
「天国というのは、苦しみも悲しみもない世界だ。そこで生きられるのは、この世で苦しんでいる人には救いなんだ。だから、わたしたちは、死んだ人がそこで暮らせるように、そして、やがて自分が死んだときにそこに行けるように、希望を持って歌うんだよ」
「永遠の喜びと希望ですね?」
「そう。悲しみではなく、喜びなんだよ」
 クラリスは黙ってメランベルジェのしわだらけの顔を見つめた。昔、クラリスは、よくそんなふうに彼を見つめていたものだった。
「まず、わたしの番が来る。それから、いつかはわたしの子どもたちの番が来る。そして、きみの番になるだろう。そのうち、きっと・・・。でも、覚えておいで、クラリス。死は、悲しいことじゃなく、むしろ・・・」
 話しながら、メランベルジェの姿はだんだんと消えていった。驚いているかの女の前に、今度はエドゥワール=ロジェが現われた。
「人生なんて短いものさ。短くてあっけないものさ。でも、あっけないからすばらしいのかな、クラリス」
「あっけないの? どうして?」
「若い頃はすばらしかった。毎日が光って見えた。でも、だんだん、日々は光を失ってきた。そうしたら、時間ばかり早く流れていくことに気づいた。わたしは、ばかなことばかりして時間をつぶしてきたような気がする」
「どうしてそんなことを言うの、ムッシュー=ロジェ?」
「いいかい、自分に正直に生きるんだ、クラリス」
 クラリスは、もう一度正面を見た。
 正面の写真は、かの女自身のものだった!
 かの女は、はっとして目を覚ました。
 なぜ、ロジェの夢なんか見たのだろう?
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