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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第494回

「ええ。もし、お望みなら、開けて差し上げましょうか?」シャルロットはそう言いながら、車椅子を金庫の方へ向けた。
 マルローはうなずいた。
「そして、例の、67番書類をお目にかけましょう」シャルロットは前進しながらいった。「それは、ペール=トニィのお気に入りの書類で、みどりの封筒に入っていましたね。中味は、メンデルの論文のコピーです」
 ダルベールはうなずいた。彼は、ドクトゥールが生きていた頃、いつもドクトゥールの一番そばにいるように心がけていた。彼自身は物理学に興味を持っていたが、ドクトゥールは生物学、特に遺伝に興味を持っていることを知っていた。ドクトゥールは、<67番書類>と名付けたその書類を、暇を見つけては読み返していた。ドクトゥールにとって、それは聖書と同じくらい価値のある書類であったろう・・・とダルベールは思っていたものだ。
 シャルロットは二人の博士にはみえないような位置で金庫のダイヤルをまわし始めた。
 やがて、金庫のふたが重い音を開けて開いた。
 ある意味に置いて、この瞬間は歴史的瞬間だった。このとき、シャルロットは、ユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリー本人であると認められたのだった。長い間主がいなかった研究所に、正当な持ち主が戻ってきた。そう、ユーフラジーは生きていたのだった!
 ドクトゥール=ダルベールは、<67番書類>を握りしめていた車椅子の少女を抱き上げ、泣き出した。ドクトゥール=マルローは、その様子を冷静さを保ったまま見守っていたが、彼の目もぬれていた。
 やがて、ドクトゥール=マルローは、ダルベールの手からシャルロットを受け取り、車椅子に戻した。そして、冷静さを装って訊ねた。彼が冷静ではないことは、そのうわずった声が証明していた。
「・・・これから、どうなさるのですか、シュリーさま?」彼は、昔ユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリー時代のシャルロットに話しかけたときと同じ調子で訊ねた。
 シャルロットは真面目な顔をした。「あなたがたにお願いがあるのですが・・・」
「なんなりと」二人は声をそろえて返事した。
「わたしがいいと言うまで、わたしの正体を隠していて欲しいのです」
「どうして?」ドクトゥール=ダルベールは不満そうに訊ねた。
「わたしは、もう一つ、過去を持っているのです」シャルロットの顔はくもった。「わたしは、1907年7月14日以降のこと---シャルロット=チャルトルィスカのことを思い出さなければなりません」
「ですが・・・」
「もし、わたしがそれをしなかったら、今までわたしのために、昼夜なく心を配ってくれた人たちの苦労は報われません」シャルロットは涙ぐんだ。「わたしは、今まで、本当にたくさんの人たちに愛されて、守られてきたのです」
 ダルベールはうなずいた。
「わかりました。その、もう一つの記憶を取り戻すために、わたしたちもできる限りの協力をいたします」マルローが言った。「ですが・・・これからあなたを、どう呼べばいいのでしょう?」
「これまで通り、シャルロットと呼んで下さい。どちらにしても、わたしの名前はシャルロットです」シャルロットは苦笑した。「本当のことを知っているのは、あなたがた二人だけです。ですから、間違っても昔の名前で呼ばないで下さいね」
 二人は同意した。
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