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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第27章

第495回

 次の日、シャルロットが起きたとき、スール=コラリィの姿は消えていた。
 シャルロットは、枕元にノートがあるのを見つけ、中を開いた。そのノートは、スール=コラリィが綴りを教えてくれた懐かしいノートだった。それには、シャルロットが一生懸命に正しく綴ろうとした跡と、スール=コラリィの生真面目な字が並んでいた。その一番後ろのページに、スール=コラリィはこんな文章を書いていた。


さようなら、シャル。また会いましょうとは言いたくありません。もし、また会うことがあっても、そのとき、あなたが患者ではないことを祈っています。                            
シャルロット=ランブール



「・・・シャルロット=ランブールですって!」シャルロットはびっくりして叫んだ。「まさか、スール=コラリィが、あのシャルロット=ランブール?」
 ちいさい頃の記憶が戻ったシャルロットには、当時天才少女と呼ばれていたヴァイオリニストのことがわかった。一度も会ったことはなかったが、その少女は、とても有名だった。たぶん、あのころ、ユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリー以上に有名だったろう。そんな少女が、どうしてヴァイオリンをやめてまで修道女になってしまったのだろう? 修道女になっても、かの女のヴァイオリンの腕は落ちてはいなかった。シャルロットを闇の中から救い出したのは、シャルロット=ランブールのヴァイオリンだった。いや、今は、スール=コラリィと言うべきなのだろう。かの女が選んだのは、ヴァイオリニストという道ではなく、神に仕える道なのだから・・・。
 かの女はノートを閉じ、窓際に行った。スール=コラリィの姿が見えるはずはなかったが、かの女は外を見たかった。自分の部屋から見える風景は、病院の窓から見たものとは全く違っていた。共通点があるとすれば、窓際に大きな木があることくらいだろう。
 かの女は、スール=コラリィがいつも連れて行ってくれるあの木のことを思い出していた。あの病院の木の下で、シャルロットはスール=コラリィからいろいろなものを受け取った。スール=コラリィは、かの女に何でも与えた。ヴァイオリンの弾き方も、フランス語の知識も・・・。それは、すべて、スール=コラリィの愛だった。
 そのとき、かの女には、急にわかった。今まで自分を突き放すようにしていたスール=コラリィの態度の理由が・・・。あれは、スール=コラリィの深い愛情だったのだ! あのスール=コラリィが、理由もなくかの女を遠ざけるはずはなかった。その証拠に、スール=コラリィは、《また会いましょうとは言いたくありません》と書き残したではないか。怪我人として出会った少女に、看護修道女として《また会いましょう》と書くことはできないのだ。あの文章を書いたとき、スール=コラリィがどんなにつらい気持ちだったか、今のシャルロットには理解できた。
「スール=コラリィ、また会いましょう・・・いつか・・・わたしが歩けるようになったときに・・・」シャルロットは、木に向かってつぶやいた。
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