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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第28章

第500回

「あとで、誰かに、出入り口をきちんと教えてもらった方がいいわね。あの門に限らず、閉まっている門を飛び越えようなんて考えない方がいいわ。閉まっているのには、ちゃんと理由があるんですからね。サント=ヴェロニック校には、いくつか門がありますが、門番が立っている門は二つしかありません」マダム=ベルマンが言った。
「・・・それは、もしかすると、入口と出口でしょうか?」ド=グーロワールは、真面目さを装って訊ねた。
 マダム=ベルマンは、ちいさくため息をついた。かの女は、その問いは無視することに決めたようだった。「この通りは、シャラント街道と呼ばれています。ここは、修道院の敷地内です。原則として、ここは男性は立ち入り禁止なのです。そして、この建物が女子寮です。男性は、女子寮の建物から5メートル以内に入っては行けないという決まりになっています。ですから、あなたはこの一角には入るべきではありません」
 ド=グーロワールは、自分がかの女の生徒になったような気分になっていた。
「ところで、わたしの名前は、ジェルメーヌ=ブランシェです。ですが、死んだ夫の姓でマダム=ベルマンと呼ばれています。彼は、約10年前に死にました。---というか、結婚生活はわずか半年だったんですけどね。そのとき、彼の家族は、まだ若かったわたしに、マダム=ベルマンでいるより、マドモワゼル=ブランシェに戻った方がいいと勧めてくれたのです。それで、わたしは本当はマダム=ベルマンじゃないのですが、生徒たちが勝手にマダム=ベルマンと呼んでいるうちに、それが名前みたいになってしまったんです。新入生には、必ずマドモワゼル=ブランシェだと言うんですけどね・・・。でも、もう諦めかけています」
 彼はほほえんだ。生徒たちにあだ名で呼ばれる教師には、悪い人はいない。かの女は、生徒たちに好かれているに違いない。
「ところで、あの修道女たちですが、あなたを強盗だと思ったに違いありません。ご存じありませんか、昨日、ヌーヴォー=ポワッソニエール街で、おばあさんが襲われて、犯人はまだミュラーユリュードに潜伏中だそうです。犯人は、若い男性だそうよ」
「だから、門のところで、チェックがあったんですね」彼は、前の日の晩、プランタン大通りから城外へ出て行く人を調べていたことを思い出した。それから、彼は突然笑い出した。
「・・・で、あなたも、ぼくをその犯人だと思ったのですか?」
「いいえ。でも、変質者じゃないかと・・・」
 二人は大笑いした。
「真面目な話、もし、わたしがいなかったら、あなたは今ごろ、大騒ぎの末取り押さえられて、サン=ティレールに、不法侵入者としてこってり絞られていたに違いないわ」
「サン=ティレール?」
「そう。この学校で、最も権力を持っている先生よ。彼ににらまれでもしたら、大変なことになるわ。残念だけど、ここには、本当に信用できるような人間はまれだわ。強いて言うと、数学のエマニュエル=テリエくらいかしら、信頼してもいい人間は」
「あなたは、どうなんですか、マドモワゼル=ブランシェ?」ド=グーロワールが訊ねた。「あなたを信じるべきですか?」
 マダム=ベルマンはまたため息をついた。
「わたしは、信じますよ、マドモワゼル。そうでなければ、今聞いた話は全部嘘だったことになる」
 かの女は、彼の目をのぞき込んだ。彼の目は笑っていた。
「・・・あなたは、ここでは、苦労しそうね・・・」かの女は苦笑した。
 あとは、二人とも無言のままだった。
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