FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第28章

第502回

 二人は教室に向かって歩き出した。彼は、松葉杖をついて歩いているシャルロットの歩調にあわせてゆっくりと歩いた。
 好奇心あふれる彼は、まわりのものを珍しがって見ていた。
 廊下には掲示板があり、掲示物が貼ってあった。真面目な内容も多いのだが、《階段の手すりは、滑り降りるためにあるのではありません》とか、《廊下は、おしゃべりせずにまん中を歩きましょう。端を歩くとドアにぶつかります。どうしても端を歩きたい人は、ドアが開いてもぶつからないように、いつでも逃げる覚悟が必要です》といったポスターも貼られていて、ド=グーロワールは驚いた。
 彼はこういったポスターを眺めて、いったい誰がこんなことを考えるのだろう、と教師らしくない好奇心から考えていた。隣にシャルロットがいるので、笑うのはやめにしたが、なかなかユニークな生徒たちのことを考えると、おかしくてしょうがなかった。
 彼が気になったのは、それ以外の場所の掲示物が多いことだった。ほとんどがいたずらで、たとえば<2年7組→>というたぐいのものだった。それにしても、どうして2年7組への案内がこんなに多いのだろう?と彼は考えていた。全部同じ筆跡だったわけではなかったのも不思議だった。
 彼は、教室に向かって歩きながら、さっきマダム=ベルマンが言った言葉を思い出した。
失礼ですが、あなたは、あの2年7組にふさわしい先生のようですわ・・・』
 彼は、マダム=ベルマンの言葉に込められたニュアンスを思い出していた。彼は、初めて<失礼ですが>と<あの>に込められた意味がわかったような気がしたのである。彼は、どうやら型破りな人物だと思われたらしいと思った。彼は、思わず苦笑した。そして、癖になってしまっている、長めの髪を後ろにかき上げる動作をした。シャルロットは驚いて彼を見つめた。しかし、彼は自分のくせに気がついていないので、かの女がなぜ驚いたのかわからなかった。
「ぼく、2年7組が好きになれそうな気がするよ」彼はシャルロットにささやいた。
 シャルロットは、真面目な顔でうなずいた。
 教室の前についた。ドアには<2年7組>という紙が貼ってあった。そして、その下に、<入るときにはノックをしよう>と書かれていた。
 ド=グーロワールは、シャルロットをちらっと見てからドアを開けた。
 そのとき、教壇には一人の少年が立っていた。
 黒板には<フランス近代詩は、いかにして発展したか>と丁寧な字で書かれていた。
 ドアが急に開いたので、みな一斉にドアの方を見た。
「授業中ですよ」少年は、いかにも迷惑そうな口調で言った。「それに、あなたは、フランス語がわからないのですね。ドアに何と書いてありますか?」
 ド=グーロワールは、小学生のような口調で答えた。「ぼくは、4分の一だけポーランド人なので、フランス語はよくわかりません。でも、《2年7組》と書かれているようです」
 少年は、眉をつり上げた。
「そして、《入るときにはノックをしよう》と書いてあります」
 みな、あっけにとられていたが、やがて教室は笑いの渦に飲み込まれた。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ