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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第3章

第48回

 月日は流れ、卒業コンクールの季節がやってきた。
 作曲コースの課題も発表された。今回は、「レクィエム」が課題であった。
 クラリスが驚いたのは、課題に使われたモティーフが、いつか見たお葬式の夢のときに流れていた音楽に酷似していたためであった。
「・・・クラウス=レヴィンが予言したとおりだ」掲示板を見ていたアントワーヌ=ドルーがクラリスに言った。「今回は、<レクィエム>になるだろう、って」
「ええ、そんなことを言っていたそうね」クラリスが答えた。
 かの女は、あれ以来、クラウス=レヴィンと直接話したことはない。どうやら、クラウスはかの女を避けているように見えた。特に親しい女性の噂も聞かないし、彼は謎だらけの存在に戻った感があった。
 かの女は、その場を去った。
 その数日後、かの女は、寮の自室で作曲をしていると、窓からなにやら飛び込んできた。誰かがふざけて石でも投げたのか・・・と思ってよく見ると、その石には手紙が巻き付けられていた。

『渡したいものがあります。あす、レマン湖のほとりでお待ちしています。
クラウス=レヴィン』

 クラリスは、窓の外を見た。遠くにクラウスの後ろ姿が見えた。彼は駆け去っていくところだった。
 かの女は、会いたくないと思った。またあの苦しみを繰り返したくなかったのである。
 3日後、ランディ教授のレッスンが終わった後、クラリスはアントワーヌ=ドルーに呼び止められた。
「クラリス、これをクラウス=レヴィンから預かったんだけど」アントワーヌは、スケッチブックを差し出した。
「スケッチブック?」クラリスは首をかしげた。そのスケッチブックには見覚えがあった。クラウスがいつも持っている、あのスケッチブックであった。
「それから、伝言をね。『さよなら、クラリス。ぼくはパリに行きます。このスケッチブックは、ぼくの心です』・・・どういうことなの?」
 クラリスは、はっとした。「・・・クラウスは、もう、作品を提出したの?」
「ええ」アントワーヌが言った。「作品を提出すると、荷造りをして、寮を引き払って出て行ったんです。どちらにしても、ここにはもういられないから・・・って言ってました」
「卒業コンクールの結果も見ないで、出て行ったというの?」クラリスはあぜんとした。
「どうせ、1位はきみとクラリスだろう・・・って・・・」
 クラリスは、スケッチブックを開いた。
 スケッチブックの中身は、交響曲だということは知っていた。彼が何度もほのめかしていたからである。ただ、どんな音楽かは、まったく知らなかった。それは、メランベルジェが好んで使った形式を用いた交響曲で、この学校の学生が作った曲とは思えないような厳格な和声と、ロマンティックともいえる優しいメロディーとが絶妙なバランスで織りなす美しい音楽であった。彼の学生生活の終点がこの曲だとすれば、彼がめざしているのはベルナール=ルブラン風の音楽に違いなかった。彼の行き先は、ベルナール=ルブランのメランベルジェ校に違いない・・・とクラリスは確信した。
 いつのまにか、アントワーヌ=ドルーは去っていた。
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