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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第28章

第505回

 クラス中がどっと笑った。
「しかし、《あの》2年7組っていうのは、何なの?」彼は真面目な顔で訊ねた。
 笑いは止まらなかった。
「それより、《失礼ですけど》も気になるんだけど・・・。もちろん、きみたちにふさわしいと思われるのはうれしいよ。でも、どうして《失礼ですけど》なの?」
 彼は首をかしげ、黒板の隣にあるピアノの前に移動した。この教室には、なぜかピアノが一台あった。入り口の近くにあり、ドアを開けると誰が弾いているか一目でわかるので、このピアノは滅多に触れられることもなく、ただ置かれているだけと言っていい状態だった。しかし、きちんと調律されていた。彼は、ピアノのふたを開けた。そして、座り心地の悪い椅子に座ると、いきなりシューベルトの<モマン=ミュジコー>を弾き始めた。
「いいかい、この曲は、ぼくだ」彼は弾きながらこう言った。「いや、これは、ぼくたちなんだ。こじつけと思われるかも知れないけどね」
 クラス全員、黙ったまま彼の言葉に耳を傾けていた。
「メロディーは一見軽くて、おどけているようだけど、きちんと伴奏のリズムに支えられている。・・・このバランスを聞いて欲しい」彼は続けた。「これは、ぼくときみたちとの理想の関係だ。ぼくは、拍をきざみながら、メロディーが勝手に突っ走るのを止めなければならない。きみたちは、一見おどけているようだけど、伴奏のリズムに合わせて、決して暴走はしない・・・。ぼくたちは、この曲のように、どちらがかけても曲として成り立たない、そういう関係をつくっていきたいと思う。協力してもらえるかい?」
「ええ、もちろん!」みな、口々にそう言った。
 そのとき、出し抜けにドアが開き、声がした。
「だから、きみたちだけでは・・・!」
 彼は、校医のリュシアン=ワッセルマンだった。彼は、<アヴィ>がいなくなったあと、ときどきこうして2年7組の自習ぶりを見に来ていた。彼は、ピアノを弾いているド=グーロワールを見て驚いた。
 しかし、先手はド=グーロワールが取った。
「リュシアン=マリー=エスプリ=ワッセルマン。きみには、そこに書いてある言葉が読めなかったようだね。何て書いてある?」
 生徒たちは笑っていた。
「・・・ちっとも変わっていないね、きみは・・・!」ワッセルマンは駆け寄って、ド=グーロワールを抱きしめた。
「・・・元気そうじゃないか・・・」ド=グーロワールも小声で言った。
 クラス全員が黙ったまま成り行きを見守っていた。
 やがて、二人は離れた。
「リュシアン=マリー=エスプリ=ワッセルマン、そこに書いてある言葉を読んでみたまえ」ド=グーロワールは、いかにも先生であるという口調で言った。
 ワッセルマンは、《まいったな》という態度になった。「ぼくは、昔からスイス語が苦手だって、きみは知っているはずじゃないか・・・」
「いや、これはスイス語じゃない。確か、オーヴェルニュで使われていた言語だったはずだ」
 ワッセルマンは苦笑し、わざとオーヴェルニュなまりで言った。「ごまかしちゃだめだよ。きみは、授業中ピアノを弾いていたじゃないか。責任はどう取るつもり?」
 ド=グーロワールは、わざと真剣な顔をして言った。「ぼくは、ここの校則をまだ知らないが、音楽の授業をするのと、オーヴェルニュ語での警告を無視するのと、どちらが罪が重いのかな?」
「音楽の授業だって!」ワッセルマンもびっくりしたふりをしていた。「歴史やさんのきみが?」
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