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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第28章

第506回

 ド=グーロワールは、クラス全員に同意を求めようとした。
「ぼくは、今、音楽の授業をしていたんだよね?」
 クラス全員がにやにやしていたが、誰も返事をしなかった。
「ほら、ごらん。もう、ピアノを弾いちゃだめだよ、迷惑だからね」ワッセルマンが勝ち誇ったように言った。
 ド=グーロワールは、わざと傷ついたような表情でクラス全員を見た。
「リュシアン=マリー=エスプリ=ワッセルマン、先生は、このぼくだ」彼は、ワッセルマンをにらみつけた。
「わかった、わかった・・・」ワッセルマンは出て行きかけた。「話はあとにしよう」
 彼は、一度ドアを閉めた。それから、ノックをして顔を出した。
「リュシアン=マリー=エスプリ=ワッセルマン、まだ何か?・・・ぼくは、授業があるんだけど」ド=グーロワールは、めんどくさそうな口調で言った。
「そうそう、一つ警告があった。きみは、ぼくが自分の名前が嫌いだと言うことを思い出してくれたようで、とてもうれしいよ。お願いだから、聖人の連祷みたいに繰り返すのはやめてくれないか?」
 クラス中が笑っていた。
 そして、今度こそ彼は出て行った。
 彼が出て行くと、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズが言った。「彼の名前があんなに長いとは、知りませんでした」
 ド=グーロワールは、大変な秘密を打ち明けるときのように真剣な顔をして、こう言った。
「・・・いや、本当はね、マリーとエスプリの間にジョゼフが入るんだよ・・・」
 全員笑い出した。
「リュシアン=マリー=ジョゼフ=エスプリ=ワッセルマンというのが、彼の本当の名前なんだ」ド=グーロワールがにやりとして言った。「でも、ぼくは、彼が自分の名前を嫌いなのを知っているから、決してフルネームでは呼ばないんだよ。優しい男だろう?」
 そう言うと、彼は本来の真面目な表情になった。
「・・・さて、ぼくは、このクラスのことをもっとよく知りたい。初めてこのクラスに入ったときから、このクラスはほかのクラスより生き生きして見えると思った。なぜだと思う?」ド=グーロワールが言った。
 彼は、バッグの中から紙を取り出した。
「作文を書いて欲しい。テーマは、<2年7組とわたし>あるいは<2年7組の中のわたし>だ」
 彼は、一人一人に紙を配りながら歩いた。
「ムッシュー=ベルリオーズ、今日中に座席表を作っておきなさい」彼がアグレスールに言った。そして、片目を閉じた。「なるべく、あだ名も一緒に書くように、ね」
 アグレスールは怪訝そうに彼を見た。
「このクラスのことだ、みんな、あだ名とか通称があるんじゃない?」
「なぜ、そう思うのですか?」アグレスールが訊ねかえした。
「あの教授、さ」彼は、サルヴァドール=クートンの方を見た。「さっき、彼は、自己紹介する際に<通称ムッシュー=ラタン>と言った。きみたちには、きっとクラス内での呼び名がある、と思ったんだ」
「うーん・・・」アグレスールは、声にならないようなうなり声を出した。この人は、見かけに寄らず鋭い。まるで、さっきの音楽のようだ・・・。
『この曲は、ぼくだ』彼はそう言った。そのとおり。彼は、《モマン=ミュジコー》だ。
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