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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第3章

第49回

 かわってエマニュエル=サンフルーリィが立っていた。
「こんにちは、クラリス。絵でも描くの?」
 エマニュエルには、そのスケッチブックに見覚えがあった。
 クラリスは、ちょっと暗い表情になった。「クラウス=レヴィンが、出て行ったんですってね」
「・・・昨日ね。パリで勉強したいと言っていたそうだよ」エマニュエルが答えた。
「・・・そうね・・・そのほうがいいのかもしれないわね・・・」クラリスが考え込みながら言った。
「それ、クラウスのスケッチブックでしょう?」
「ええ、さっき、アントワーヌから受け取ったの。ちょっと、複雑な気持ち」クラリスが言った。
「どうして?」
「最後に、一度会うべきだったのかな・・・って・・・後悔しているの」
 エマニュエルは首をかしげた。
「クラウスは、わたしに会いたい、って手紙をくれたんだけど、わたし、会いに行かなかったのよ」クラリスが言った。
「どうして?」
「だって、会いに行けば、苦しいだけですもの」クラリスが答えた。「わたし、彼を忘れようと努力したわ。でも、そんなに簡単に忘れられるはずないでしょう?」
「どうして、忘れようと思ったの?」
「だって・・・だって・・・」クラリスは口ごもった。「クラウスは、レマン湖で、女性と会っている・・・そう言ったのは、あなたじゃないの、エマニュエル」
 彼は、あぜんとした。「・・・あなたは、その噂を信じたのですか? その女性が誰なのか、確かめもしないで?」
「彼が誰かと・・・楽しそうに話をしている現場に行くことが・・・そんなに愉快なの?」クラリスが言った。「わたしは、惨めな思いをしたくなかった。だから、行かなかったのよ」
「本当に彼が好きなら、どうして、その女性と対決して、彼を奪おうとは思わなかったの?」エマニュエルが訊ねた。
「対決ですって?」クラリスが思わず大きな声を出した。
「いや、彼にすがりついて、『わたしの方を見て』って言えなかったの? 本当に好きなら、できるはずでしょう?」
 クラリスの目に涙がたまってきた。「いいえ、わたしには、できないわ・・・そんなこと・・・」
「じゃ、あなたは、本当に彼を愛していたんじゃない」エマニュエルが言った。「本当に好きなら、何だってできるはずだ」
 クラリスには、返事できなかった。かの女は下を向いた。
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