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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第28章

第519回

 シャルロットは、返事をしようとして、急にあたりが静かなことに気がついた。いつの間にか、チェロの音色は止んでいた。
 フランソワは、シャルロットがあたりを見たので、自分も驚いて腕時計を見た。
「・・・しまった! モマン=ミュジコーの古代史が始まっている・・・!」
 シャルロットは松葉杖が揺れるくらいふるえだした。
「二人で一緒にいるのはマズイ。見つかったら、罰を受けるのはきみだからね」フランソワが言った。「いいかい、プティタンジュ、きみが最初にかえってこう言うんだ。『さっき、ドクトゥール=ワッセルマンのところにいって、帰り道を忘れました』・・・これで、きっと大丈夫。ぼくは、いいわけなんかしなくても、誰も怪しまないさ」
「でも、わたしのために・・・」
「違うよ、プティタンジュ。ぼくが引き留めたんだ」
 シャルロットは首を横に振った。「あなたのために弁解しなくちゃ・・・」
「やめてくれよ!」フランソワは必死になった。「授業中に男の子と会っていたなんてしゃべったら、きみは停学になってしまうよ! 間違ってもそんないいわけをしちゃだめだ!」
 そのとき、急にコルネリウス=ド=ヴェルクルーズが現われた。廊下の曲がり角から現われたので、二人は彼が飛び出してきたように見えた。
「アンシャン・・・」コルネリウスは思わず口ごもった。彼は、いつもの皮肉めいた表情に戻ると、フランソワにこう言った。「きみって人は! 授業中に女の子を連れ出すとどうなるか、きみにはわかっているはずだ」
 コルネリウスは、フランソワとシャルロットをかわるがわる見た。彼がふと考えたのは、5年前ドニ=フェリーが『ぼくは7つのときからずっとロッティが好きだった』と言ったときの真面目な顔と、『わたしは、強い男の人より、優しい人の方が好きだわ』と言った5歳のユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリーの優しい声だった。コルネリウスは、シャルロットを初めて見たときから、かの女の中に、小さなユーフラジーの面影を見ていた。シュリーそっくりな女の子が、あの頃のかの女と同じように振る舞っている・・・。優しい男たちの一人であるフランソワ=ジュメールに接近しているではないか!
「プティタンジュを探しに来たのかい?」
「そうだ。モマン=ミュジコーの命令だ」コルネリウスはぶっきらぼうに返事をした。「アンシャン、きみは一緒には来ないで欲しいな。もし、かの女に罰を与えたいと考えているのではなければね」
「もちろん、そうするさ」フランソワが言った。
 この二人は仲が悪かった。もともと2年違いの彼らは、ソサイエティで知り合った。フランソワは、コンサートマスターの地位にいるコルネリウスが昔から嫌いだったし、コルネリウスの方も、自分を嫌悪しているトランペットのトップ奏者の存在に気づいていて、彼を避けていた。彼らが犬猿の仲だと言うことは、クラス中で知らぬものはなかった。
「おいで、プティタンジュ」コルネリウスは、ぶっきらぼうな調子で言った。
 シャルロットは、ゆっくりと彼の後に従った。
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