FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第555回

「さて、お友達の方だが・・・」そう言うと、彼は急に事務的な口調に戻った。「彼の心臓は、ひどく弱っている。はっきり言うが、今のままの暮らしをしていたら、つまり、ミュラーユリュードに戻ったら、ということだけど、半年後に生きていることをわたしには保証できない。長くて半年だ。あと4ヶ月の命だと言っておこう。彼は、やりたいことがいっぱいあると言っていたが、3~4ヶ月では、何もできないだろう・・・。シャルロット、人間が死ぬってどういうことかわかるかい?」
 シャルロットの脳裏に浮かんだのは、かつてスール=コラリィがいった言葉だった。
『死ぬって言うのは、眠りなのよ。でも、決して目覚めない眠りなの。・・・死んでしまえば、痛みなんか感じないのよ。でも、それがどういうことなのか、わたしにもよくわからないわ・・・』
「死ぬって言うのは、生きていない状態だ」彼が続けた。「では、生きていないというのはどういうことだろう? 今の生活を考えてごらん。それを一つ残らず失うということを考えてごらん。何か一つくらい、失いたくないものはないかい?」
「わたしは、すべてを失いました」シャルロットが答えた。
「記憶のことだね。でも、それは、突然のできごとだった。前もって予告されていたら、きみはそれを失いたくないと考えただろうね。シャルロット、死ぬときに一番つらいことは、この世に何かを残していくことなんだよ」
「悔いを残して死ぬのはつらいことだろうね」ドクトゥール=マルローも言った。
 しかし、シャルロットは首を横に振った。「でも、長く生きたら、彼には悔いは残らないのでしょうか? ドクトゥール=アース、わたしは、知っているんです。彼が本当にしたかったのは、空を飛ぶことだったんです。彼は、飛行機に乗って空を飛んでみたかったのです。でも、彼は、自分にはそれができないことを知っています・・・。ですから、彼を空のブルーの天井の下で死なせて下さい。せめて、それだけでも彼に許してあげて下さい」
「外に出るつもりなの・・・!」ドクトゥール=アースは絶句した。
「お願いします」シャルロットは頭を下げた。
「わたしには、できないよ。死ぬとわかっている人間を、何もしないでただ見ているだけだって苦痛なのに・・・どうして・・・?」ドクトゥール=アースは力無くつぶやいた。
 シャルロットは、二人の医師をそこに残し、部屋から出た。
 かの女が向かったのは、懐かしい部屋だった。
 イアサント=クチュリエは、松葉杖をつきながらゆっくり歩いてくるかの女を見て、目を丸くした。彼は、かの女に抱きよって、抱きしめた。
「元気そうで、よかった!」彼はうれしそうだった。
「あなたもね、ドクトゥール=クチュリエ」
 シャルロットは、自分がこの病院にやってきた理由を説明した。彼は、友人のドクトゥール=マルローがアース医師のところにいると聞いて会いたがった。それで、シャルロットも部屋から出た。
 かの女は、次にスール=コラリィに会いたいと思った。しかし、スール=コラリィは夜勤当番の翌日で、修道院にいるということだった。かの女は、スール=コラリィに会うため、病院に隣り合った修道院に行こうと思った。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ