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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第557回

「わたしは、スール=サント=ジュヌヴィエーヴ・・・。あなたの母親じゃありません」修道女が答えた。
「ね、お願い、話して下さい」シャルロットは、修道女のすみれ色の目をじっと見つめながら言った。「ペール=トニィは、『わたしの妻はとても美しいすみれ色の目をしていた』と言っていたことがあります・・・」
 かの女はうなだれた。しばらくの間黙ってシャルロットを見つめたあと、かの女は優しく言った。
「・・・大きくなったわね、ロッティ・・・」
 シャルロットは大きく息を吸い込んだ。これまで自分が息を止めていたことに全く気づいていなかった。
「わたしは、あなたの母親ではありません、ロッティ」修道女が言った。「あなたには、いつか、本当のことを話してあげましょう。あなたが、もっと大きくなったら・・・」
「・・・では、あなたは誰なんですか?」シャルロットの声が震えた。
「わたしの名前は、アレクサンドリーヌ=ド=ルージュヴィル。ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィルの妻で、シャルロットという娘の母親でした」修道女が話し出した。「わたしは、あなたの母親ではないし、そうなることもできないのです」
「・・・神に仕えると決めたから・・・?」シャルロットが訊ねた。
「いいえ。わたしは、約束したのです、あなたが16になるまで、本当のことは話さない、と。わたしの娘のシャルロットは、10年前に死んだのです。わたしは嘘はついていません」修道女が答えた。
 シャルロットの目に涙がたまってきた。このひとは、自分の母親ではなかった。そして、一生懸命に何かを隠している。嘘はついていないが、本当のことを話しているとは言えない。この女性は、何を隠そうとしているのだ? いったい何のために?
「わたしは、本当の修道女ではありません。修道院にお世話になっているだけです。ですから、いつでもここを出て、好きなところに行くことができる身です。ですが、そうしてはいけないのです」
 シャルロットは不思議そうに顔を上げた。
「あなたが生きているとわかった以上、わたしは、あなたを守らなければなりません」
「わたしを守る?」
「わたしたちは、5年前にあの事故に遭うまで、ずっと誰かに命を狙われていました」スール=サント=ジュヌヴィエーヴが言った。「ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーがあなたにどこまで事情を話していたのか、わたしにはわかりません。わたしたちはずっと狙われていました。あなたは、彼の妻がどのようにして亡くなったかということについて、どのくらい事情を知っているのかわかりません。でも、はっきり言いましょう。わたしは、誰かに毒を盛られました。そして---ある女性が、わたしの身代わりに亡くなりました。その日から、わたしと亡くなったかの女はすりかわったのです」
 シャルロットはかたくなって聞いていた。しかし、このとき、かの女は、目の前の女性が誰と入れ替わっていたのか気づかなかった。話の内容そのものにショックを受けていて、亡くなった女性が誰かということを訊ねようとも思わなかったのである。
「わたしの夫は、その事件のあと、今度は自分たちが殺されると思いました。それで、彼は自分とあなたの名前を変えたのです。彼に、『何があっても、たとえ相手が誰であっても、自分がシャルロット=ド=ルージュヴィルだと名乗ってはいけない』と言われたと言ったわね?」
 シャルロットはうなずいた。
「じゃ、なぜ名乗ったの? あんな危険な目にあったあとだというのに?」修道女は、厳しい口調になった。「あなたは、何度も死にかけたのよ。それでもまだわからないの!」
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